神経細胞や筋細胞の電気活動に必須の役割を果たすイオンチャネルの多くは、多様な制御サブユニットと巨大複合体を形成し、機能の調節(モジュレーション)を受けて生理的機能を獲得する。そのため、制御サブユニットの遺伝子変異はヒトの脳機能や心臓の疾患に関わる。本研究は、イオンチャネル巨大複合体の多様なモジュレーション機構を、クライオ電子顕微鏡によるイオンチャネル複合体の立体構造解析と電気生理学を用いて解明することを目的とする。 Slo1のγサブユニットによる制御機構を解明するため、カルシウム存在下でのヒト由来野生型Slo1とγ1との複合体構造をクライオ電子顕微鏡で分解能3.2Åで決定した。γ1サブユニットが、膜ドメインとの相互作用によってSlo1の電位依存性を、細胞内相互作用によってカルシウム依存性を同時に制御することが示唆された。次に、γ1がカルシウム非依存的にRCK1のコンフォメーションを活性化型に変化させるのかについて検証するために、RCK1のカルシウム結合部位に変異を導入したSlo1変異体(Slo1(RCK1))を作成し、Slo1(RCK1)単体、および γ1との複合体構造をそれぞれ分解能3.7Å、4.1Åで決定した。両者の構造を比較した結果、γ1依存的(複合体構造でのみ)、かつカルシウム非依存的に、RCK1が活性化型コンフォメーションを取りS6ゲートが開構造を取ることが明らかになり、上述のモデルをさらにサポートする結果が得られた。さらにγ1のArgクラスターの変異体とSlo1(RCK1)変異体との複合体構造を決定することで、γ1のArgクラスターがSlo1カルシウム依存性のモジュレーターであることを検証した。最後に、Slo1-γ1相互作用に重要なアミノ酸残基に変異を導入し、電気生理解析からモジュレーションの効果を検証し、構造と機能の相関を裏付け、論文に発表した。
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