研究実績の概要 |
本課題ではウイルス感染現象の理解およびその感染制御法の発案を志向した構造生物学的研究を展開する。2020年にアウトブレイクした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中で猛威を振るった。その原因ウイルスSARS-CoV-2に関して世界中の研究者があらゆる観点から研究を進めてきたが、いまだ不明な点が多い。また、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus, HBV)を原因とする慢性肝炎に起因する肝硬変や肝がんにより世界中で多くの人が苦しんでいるが、その侵入機構に関して不明な点が多い。本課題では次のの2点に関して研究を進める。 1.SARS-CoV-2のmembrane (M) タンパク質によるウイルス粒子形成機構の解明 2.HBVの肝細胞への侵入機構の解明 昨年度までに、1については、Mタンパク質の2量体構造のクライオ電子顕微鏡での構造解析に成功し、論文発表を行った(Nature Communications, 2022)。Mタンパク質の2量体はlong formとshort formの2つの異なる状態を形成することが明らかになった。2つの異なる状態は粒子の形態形成に関与することが予想される。2については、HBVの侵入を仲介する宿主側の受容体として同定されている胆汁酸トランスポーターNTCPのアポ体の構造決定に成功し論文発表を行った(Nature, 2022)。さらに昨年度は、NTCPとHBVのLHBタンパク質のN末端に存在するpreS1領域との複合体のクライオ電子顕微鏡構造解析に成功した(Nature Structural and Molecular Biology, 2024)。LHBのpreS1領域約50残基のペプチドの前半部分はNTPCの外側に開いたトンネルに深く侵入して結合していた。またpreS1の後半部分はNTPCの細胞外表面を這うように結合していた。
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