研究課題
本申請では、還元型(不活性型)の破傷風毒素(TeNT)をクライオ電顕で用いるグリッドに固定化し、低pH下で酸化剤を添加して酸化型(活性型)へと構造変化させた場合の変化の過程を低温トラップ法で解析し、中枢神経系のみで膜侵入が起こる分子機構について考察することを目的としている。本目的を達成するためには、令和3年度に導入したクライオ電顕を稼働させる必要があったが、原因不明のトラブルが続き、その解決に3年を費やしている。最終的にカメラとそれを制御するボードの総入れ替えによって漸く稼働しはじめ、24時間のテスト撮影が続いている。この間、本研究課題の標的であるTeNTの大量精製も進み、酸化体のTeNTの粒子像を撮影するための凍結条件の検討も進んでいる。一方、他の測定装置を用い、クライオ電顕グラフェンの酸化修飾によってエポキシ基を導入した初代のクライオ電顕用の新規グリッド(Epoxidized Graphene Grid; EG-grid, Scientific Reports, 2023)を改良して、Hisタグを認識したり、マルトース結合蛋白質を認識したりする次世代型のEG-gridの開発にも成功している(未発表)。グラフェン膜上にタンパク質を効率よく固定化する技術の開発も進んでおり、EG-Grid上で破傷風毒素(TeNT)を固定化することについても計画通り実験を実施できる目途が立っている。還元剤の入った反応溶液と混合することで、構造変化を起こさせ、その直後に凍結することで、低温トラップによる構造変化をクライオ電子顕微鏡で捉える実験を進める予定である。
3: やや遅れている
当該グループでは、グラフェンに気相反応で酸素官能基を導入できる革新的酸化反応の発見を基に、クライオ電顕用のグラフェングリッドにヒドロキシ基の導入とそれに続くエポキシ基の導入によってEG-Grid(Epoidized Graphene grid)の開発に成功している。さらに最近では、マルトースやNi-NTAを導入して、マルトース結合蛋白質やHisタグを認識できる次世代型のEG-gridの開発にも成功している。これらのツールによってグラフェン膜上に標的タンパク質を固定化し、TCEPを含む還元剤入りの溶液を添加することでS-S結合を開裂した際の構造を低温でトラップした後に単粒子構造解析を行うことで構造変化を捉えることができると考えている。
令和3年度に導入されたクライオ電子顕微鏡(ARM200)が導入当初から故障が続き、結局、Gatan製カメラとそれを制御するボードの全交換ということで漸く稼働に向けての最終調整が進められるようになり、当該研究の目標達成に向けて前進できると考えられる。
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すべて 雑誌論文 (3件)
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