研究課題/領域番号 |
22H02585
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
林 文夫 神戸大学, 理学研究科, 名誉教授 (80093524)
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研究分担者 |
森垣 憲一 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 准教授 (10358179)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 人工膜 / 支持脂質二層膜 / Gタンパク質信号系 / ロドプシン / トランスデューシン / 再構成 / タンパク質組込み膜 / 蛍光一分子観察 |
研究実績の概要 |
人工膜研究は生体膜の構造や機能を理解する有力な手段てである。特に、ガラス基板に支持された脂質二層膜(Supported Lipid Bilayer: SLB) は高い安定性と多様な表面測定技術を活用できるという利点を持ち、センサーチップ開発などへの応用も期待できる。しかし 、SLBに膜タンパク質をうまく組み込むのは依然困難な課題である。本研究計画では、「擬平衡ナノディスク」を使った新しいSLB形成法 と、独自の「パターン化重合脂質二層膜技術」を融合させることによって、膜タンパク質のSLBへの効率的かつ高い配向性を持った組込方法を 確立することを目的としている。光受容体ロドプシン (Rh)とそれに共役するGタンパク質トランスデューシン(Gt) を、医薬品標的の大半を占めるGタンパク質共役型受容体(GPCR)のモデル分子として採用している。 初年度は、SLBへのRh組込み効率の向上と、配向性の高いRh組込み法を実現することが目的であったがいずれもほぼ達成できた。具体的には、N末の糖鎖やC末(Gt結合側)システイン残基に蛍光色素を付加したRhを調製し、いずれも可動性で、数10分子/μm2以上の組込に成功した。さらに、配向性の高いRh組込みには、Rhに光依存的にGtを結合させてRh*-Gt複合体を作り、これを脂質と共にナノディスクに入れSLBに展開した。ナノディスクがSLBとして伸展していく際にC末を上にするようにバイアスがかかるため、RhがおのずからC末を上に配向すると予想したものだ。また、この複合体は GTPによって解離するため、組み込まれた蛍光標識GtがGTP添加によって高速拡散すればRhがC末を上にして組み込まれていることが実証できる。これまでの実験で、GTPによるGtの高速化が認められ、我々が目的を達成する確度は格段に向上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、支持脂質二層膜(SLB)へのRh組込み効率の向上と、配向性の高いRh組込み法を実現することが目的であったがいずれもほぼ達成できた。具体的には、N末の糖鎖やC末(Gt結合側)に蛍光色素を付加したRhを調製し、いずれも0.1 μm2/sの拡散係数を示す数10-100分子/μm2の組込に成功した。さらに、配向性の高いRh組込みを実現させるため、Rhに光依存的にGtを結合させてRh*-Gt複合体を作り、これを脂質と共にナノディスクに入れSLBに展開してみた。ナノディスクがSLBとして伸展していく際にC末を上にするようにバイアスがかかるため、RhがおのずからC末を上に配向すると予想した。また、この複合体は GTPによって解離するため、組み込まれた蛍光標識GtがGTP添加によって高速拡散すれば、RhがC末を上にして組み込まれていることが実証できる。これまでの実験で、GTPによるGtの高速化が認められ、我々が目的を達成できる可能性が高まった。
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今後の研究の推進方策 |
我々が目指していた蛍光標識Gt/Rh*複合体をSLBに組み込むことができるようになったが、Gtを支持体の反対側の表面に向けた配向性の高い組み込みが実現しているかどうかは、まだ詳細に吟味する必要がある。まずは GTPによってGtがRh*から解離し、高速拡散を示すことで一分子観察上は大きな前進と言える。現在までに0.15 → 0.25 μm2/s程度の拡散係数の増加は見られているものの、視細胞円板膜で見られるような Gαtの膜からの完全解離は今の所 観察れていない。原因としては、SLBの脂質成分と Gαt が比較的強い相互作用をしていることが考えられるが、こうした仮説もSLBの主要脂質成分を任意に変化させて検証する必要がある。これまでにいくつかの脂質種とその組み合わせ組成を持つSLBにRhを組み込むことに成功しているので、それらを基盤にして仮説を検証したい。また、蛍光標識 Gαtには20%程度の不活性型が共存することが分かったので、Rh*との結合を利用したバッチ法でこれらを排除して、活性化による挙動変化をよりわかりやすく示すGαt を調製する。 上記GtによるRhの配向性組み込み法に加え、RhのC末抗体を使った配向性組み込みの可能性も探りたい。今の所、C末抗体-Rhの組み込みには成功しているが、抗体を競合ペプチドで外すのは思いの外難しい。Glyなどを使った 低pHによる抗体除去など考えられる手立てを試していく。 抗体を使った配向性組み込みが成功した場合、完全暗黒下でRhを組み込み、抗体を除いた後に 蛍光標識GtをSLBに添加し、光依存的なGtのRh*への結合や、GTPによる活性化に伴うGαtの解離を、一分子挙動変化で検証する。さらに、Rh*とGtの会合・解離は、 それらを異なる波長の蛍光色素で標識し、Rh-Gt間の一分子FRET 観察によっても実証する。
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