研究実績の概要 |
線毛の重合・脱重合装置によって固体表面を自在に動き回ることのできるシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC6803 株をモデル生物として扱った。細胞本体はガラス表面に吸着させ、線毛の引き込みについては、微小蛍光粒子を通じて可視化した。この手法は既に我々のグループによって2017年に既に確立しているが、主に実験を進めた修士の学生が改めて実験系の再現を行った。引き込みの様子についても、原著論文の中で報告しているが、これまでに一方向性の回転を示唆する軌道は得られていない。これは当然のことで、光学顕微鏡は2次元平面の観察に限定されているためである。『移動しながらの回転=コークスクリュー運動』の検出には、深さ方向を加えた3次元の座標検出が必要になるからである。そこで2008年に研究室で開発した、2次元の画像から3次元の情報を取り出し、なおかつナノメートルの精度で粒子を追跡する光学顕微鏡による観察を進めた(Yajima, ... & Nishizaka, Nat Struct Mol Biol, 2008. 15: 1119-21)。精製した分子モーターに対して用いられてきた方法論を、生きたバクテリアの一個の細胞に対し、初めて応用したことになる。バクテリアの生育条件に加え、観察に用いるプローブの粒子径や溶液の粘度、撮影条件を絞り込み、これまで2次元でしか論じられてこなかったⅣ型線毛の動きの実体が、世界で初めて、3次元的に明らかになった。
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