研究実績の概要 |
(1)インテグリンを調節する分子間の細胞内結合動態と接着誘導の解明: 細胞外LFA1と細胞内α4β1, α4β7, αIIbβ3 のキメラ分子を作成・BAF細胞に導入後、結合過程の一分子イメージングによる結合動態解析を行った。高親和性細胞外LFA1をmAb24で誘導し細胞内領域(CT)をβ2からβ1,β7に置換したキメラ分子とtalin1との結合はβ7がもっとも弱く、β2がもっとも強いことが明らかになった。 (2)ローリング、一過性停止(tether)、安定した停止(arrest)の動態変化をする実験系を用いて、遺伝子欠損T細胞の解析からtalin1、kindlin3、Rap1a/Rap1b、Rap1活性化因子 (RasGRP2, C3G)がCCL21による停止に必須であった。Rap1 affinity probe, halotag-talin1 knock-inマウス由来T細胞を用い、潅流下のキャプチャーからRap1が活性化し、遺伝子欠損T細胞の解析から, ローリングの安定化(速度低下)にはRap1、talin1が必要であるが、kindlin-3は必要ないこと、停止接着にはRap1, talin1, kindlin-3が必要であることが明らかになった。 (3)細胞極性および細胞接着・移動の制御過程を明らかにする。 前年度の解析結果から接着非依存性のCCL21によるT細胞の細胞極性をimaging cytometryおよびAIによる数万の画像解析の自動化によってRap1依存性を同定した。さらにRap1はDOCK2/Racによるアクチン骨格の成長(pseudopod)に依存してC3G/RasGRP2が活性しRap1の活性化を誘導することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでtalinとインテグリンの細胞内領域の動態を計測する手段はなかったが、一分子計測によって細胞内talin結合動態解析が可能となり、talinと会合頻度および結合時間が計測可能となった。さらに、αLβ2(LFA1)のαL鎖およびβ2鎖の細胞内領域を他のβ1, β3, β7インテグリンの細胞内領に置換し細胞に発現させ、抗体もしくはMn2+による高親和性LFA1を誘導した際のtalin1結合動態測定系を樹立し、talin1の結合動態が実測できるようになった。β2鎖がもっとも強くtalin1に結合をしたことから、今後その原因を追究することが求められる。 また、この結果はL-selectin/PNAdおよびLFA1/ICAM1による白血球接着カスケードとα4β7/MAdCAM1によるそれとの比較をする際に重要な知見をもたらした。特に後者のローリングはRap1、talin1が必要ではなく、おそらく構造的な柔軟性によりα4β7単独でローリングを行い、停止のときにtalin1が関与する。一方、LFA1/ICAM1によるローリングにはtalin1の結合が必要であることから、talin1と細胞内領域との結合親和性が調節の鍵になっていることが示唆される。リンパ球細胞極性におけるRap1の必要性についてはAIによる判定系が樹立でき、定量的に形態計測が可能になったことから、Rap1の上流シグナルの評価が明確にできるようになった。
|
今後の研究の推進方策 |
およそ計画通りに進める予定である。β7とβ2の部分キメラを作成し、結合力の差が生じている領域を同定する。また、talin1の結合部位についてpull-down アッセイなどを用いて同定する。Rap1 affinity probe, halotag-talin1 knock-inマウス由来T細胞を用い、潅流下のリンパ球のキャプチャーからローリング、停止接着に至る過程でRap1活性化およびtalin1の膜への集積のタイミングを明らかにする。リンパ球細胞極性についてはtalin1, kindlin-3, RIAM欠損T細胞、およびhalotag-talin1 knock-in T細胞を用いて、インテグリン非依存性の細胞極性誘導のメカニズムを明らかにする。
|