研究実績の概要 |
哺乳類の受精を成立させるためには、精子が卵子に接着してからごく初期の段階で、精子側のIZUMO1 (Inoue et al., Nature 2005) と卵子側のIZUMO1受容体JUNOの相互作用が必要不可欠である。このことは、IZUMO1-JUNO複合体の細密立体構造が決定されている点で実証されている (Ohto et al., Nature 2016)。しかし配偶子融合は、IZUMO1-JUNOの相互作用により活性化されたのち、複数の因子群からなる分子間相互反応の結果成立することが推測されるため (Inoue et al., Nat Commun 2015)、IZUMO1/JUNOの2因子だけでこれらの複雑な現象を説明するのは難しく、その仕組みは十分に解明されていない。そのようななか、最近、我々は世界で初めて無脊椎動物と脊椎動物に共通する配偶子融合必須因子DCST1/2を同定した (Inoue et al., eLife 2021)。驚いたことにDCST1/2は、IZUMO1-JUNO制御系とは独立した制御系で配偶子融合に寄与している。このように配偶子融合の成立には、動物種を超えて、一瞬の反応のために極めて多層で精巧な分子メカニズムが存在すると考えられる。 本年度は、哺乳類の配偶子融合に必須な因子群 (精子のIZUMO1, SPACA6, TMEM95, FIMP, DCST1/2と卵子のCD9, JUNO) のノックアウトマウスやトランスジェニックマウスの配偶子を利用して、精密構造解析、分子ダイナミクス、超高解像度顕微鏡観察などの解析に基づき、これら因子群の生理機能の解明を目指した。その結果、未公表データではあるが、着実に真の配偶子融合の分子メカニズムに迫る解析結果が得られている。
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