研究課題/領域番号 |
22H02640
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺島 一郎 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (40211388)
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研究分担者 |
鈴木 祥弘 神奈川大学, 理学部, 准教授 (50301586)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スピルオーバー / ステート遷移 / 陰生植物 / チラコイド / 林床植物 |
研究実績の概要 |
1.スピルオーバーの定量 厚いグラナをもつ葉緑体では、光化学系I(PSI) と PSIIとが離れて存在するため、PSII から PSI へのクロロフィル励起状態のスピルオーバーが起こりにくいと考えられている。強光と弱光で栽培したホウレンソウ、キュウリ、および耐陰性の強いクワズイモの葉片の青色光励起の蛍光誘導を、77Kにおいて、690 nm (PSII) および 760 nm (PSI) で測定し、スピルオーバー率を計算した。 PSI 蛍光 (FI) は、固有の PSI 蛍光 (FIα) と PSII からのスピルオーバーによって引き起こされる蛍光 (FIβ) から構成される。 弱いPSI、PSII光によって誘導されたステート1、2間で、FIおよびFIIパラメータを比較すると、PSII最大蛍光(FIIm)はステート1で大きく、FIαはステート2で大きかった。 スピルオーバー比 FIβ/FIm は 0.25 ~ 0.4 で、ステート 1 で大きかった。オオムギのクロロフィルb 欠損変異体では、FIIm、FIα ともに PSI、PSII 光に対して非感受性であり、FIβ/FIm は 0.33 だった。強光および弱光で生育したクワズイモの葉の葉緑体は、いずれもストロマチラコイドが発達しており、non-appressedチラコイド膜/総チラコイド膜の比率は成長時の光強度の影響を受けなかった。大量のnon-appressedチラコイドが、特にステート1でのスピルオーバーを可能していると思われる。遠赤光の多い林床などの植物の葉緑体は、ステート1にある。突然射し込む強光による阻害をスピルオーバーによって回避していると思われる。
2.測定系の構築 種々の光合成機能が測定可能な、りん光計測タイプの酸素測定系を構築した。1 ㎝2の葉片で信頼性の高い光-光合成曲線が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年3月東大理学系研究科を退職後、4月から東大・農・生態調和農学機構において特任研究員となり研究を継続している。引っ越しやセットアップなどにやや時間を要したが、2023年度にはスピルオーバーの論文を仕上げて投稿した。また、9-アミノアクリジン測定系、酸素測定系などがほぼ完成した。
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今後の研究の推進方策 |
1.変動光下のPSI光阻害は、弱光→強光移行初期に起こるはずである。シロイヌナズナ、タバコ、イネの野生型とPSI循環型電子伝達系(PGR5/PGRL1系やNDH系)の変異体の生葉に、赤色変動光(±FR光)を与えながら、PSII電子伝達速度、PSIIアンテナの熱散逸(NPQ)、P700の酸化還元状態を連続測定する。PSI光阻害の回避、熱散逸系の速やかな誘導の2つの観点から、データを解析する。 2.シロイヌナズナ野生型および各種変異体から単離した無傷葉緑体を穏やかに低張処理して得られたチラコイド膜を用いて、励起光(± FR光)消灯後の515 nmの吸収変化を測定する。同時に9-アミノアクリジン法によってΔpH、pH電極によって外液のpH、K+電極により外液のK+濃度をモニターする。515 nmの吸収変化トレースとこれらの計測結果とを比較する 。特に励起光およびFR光の強さやK+濃度の測定に注意して行う。シロイヌナズナ以外の植物種の変異体も入手して解析する。 3.2023年度に構築したりん光計測タイプの酸素測定系を用いて、野生型や光化学系I循環型電子伝達系変異体の光合成の作用スペクトルを正確に測定し、遠赤光の役割を明らかにする。
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