研究課題
植物器官の新生・再生を支える細胞の活動基盤の拡充について、RNAプロセシングの発動に着目し、以下の解析を行なった。トレニアの直接シュート再生系では、表皮細胞脱分化時の核小体の発達や培養初期のプレrRNAプロセシング関連遺伝子の発現上昇を捉えていたが、新たに単一核RNAseq解析により、こうした遺伝子発現が培養後に出現する特定の細胞集団を特徴づけることを見出した。一方、阻害剤実験からは、これらがTOR経路の制御下にあることを示唆する結果を得た。このほか、遺伝学的解析の導入に向け、突然変異を誘発したトレニアから自殖系統群を樹立する作業にも着手した。シロイヌナズナの側根形成系では、温度感受性変異体を用いた解析から、ミトコンドリアRNAの編集やポリA分解が正常な原基形成に重要であることがわかっていた。本年度はRNA編集とポリA分解の関係を中心に研究を進め、ポリA分解の欠損がccb3の大域的なRNA編集レベルの低下を引き起こすことを明らかにした。また、RNA編集の温度感受性変異体の一つrrd2を起点に遺伝学的解析をさらに推進するため、rrd2のエンハンサー変異体およびサプレッサー変異体の探索を行い、いくつかの候補株を単離した。シロイヌナズナのシュート再生系では、TATA結合タンパク質の一種BTAF1のはたらきに着目し、BTAF1の温度感受性変異体rgd3を用いてRNAseq等の解析を行なった。許容温度と制限温度で培養した野生型およびrgd3について遺伝子発現プロファイルを比較したところ、BTAF1はSAM制御因子の発現を導く一部のサイトカイニン応答経路に関与することが示唆された。RNAプロセシングの発動の調節とBTAF1との関わりについては、現時点では不明である。すでに単離していたrgd3サプレッサー変異体については、MutMap解析を行なって、原因変異の候補を同定した。
3: やや遅れている
本研究では、シロイヌナズナとトレニアの様々な器官新生・再生(側根形成、不定根形成、カルス形成、カルスからのシュート再生、直接シュート再生)を実験系として、細胞活動基盤の充実に関わると考えられる基本的なRNAプロセシング(プレrRNAプロセシング、プレmRNAスプライシング、ミトコンドリアRNAプロセシング)と細胞内構造変化(核小体の発達、ミトコンドリアの増強、細胞質の充実など)の関係、RNAプロセシング間の関係を解析していくことを計画している。特定の新再生現象あるいは特定のRNAプロセシングについて掘り下げる個別の解析のほか、全ての現象・事象を横断するような体系的調査も計画の重要な柱である。このうち前者の個別解析は、一部で遅れているものの、計画を拡張しているところもあり、全体としては概ね順調に進んでいると言える。問題は後者の体系的調査で、実質的には準備段階で停滞している状況である。必要な労力に対する認識が甘かったことが主因であり、この部分に関する計画を見直すことを考えている。
プレrRNAプロセシングやミトコンドリアRNAプロセシングの個別解析は、当初の計画に沿って進める。大きく遅れている現象・事象横断的な体系調査については、扱う器官新生・再生現象を見直し、主たる対象をトレニアの直接シュート再生、シロイヌナズナのカルス形成/カルスからのシュート再生、シロイヌナズナの維管束分化の3つに絞ることとする(シロイヌナズナとトレニアの側根形成および不定根形成を調査対象から外し、シロイヌナズナの維管束分化を対象に加える)。維管束分化の実験系には、神戸大の近藤博士らが開発したVISUALを用いる。VISUALでは葉肉細胞が前形成層様の細胞を経て、木部または師部の細胞に分化することが知られている。これは現象としては細胞の分化転換であって器官新生・再生とは言えないが、初期段階に葉肉細胞の脱分化を含むはずであり、器官新再生時の脱分化と対比できると考えられる。シロイヌナズナのカルス形成は、側根形成や不定根形成と同様に内鞘を起源とし、トレニアのシュート再生は表皮細胞を起源とする。したがって、この体系的調査の計画見直しにより、より少ない対象から、より多くの異なるタイプの脱分化(表皮細胞の脱分化、内鞘細胞の脱分化、葉肉細胞の脱分化)について、より効率的に情報を得られるようになると期待される。これを以て研究の遅滞を打破し、推進を図る。
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Plant Biotechnology
巻: 40 ページ: 21-30
10.5511/plantbiotechnology.22.1215a
巻: 39 ページ: 329-333
10.5511/plantbiotechnology.22.0513a
http://www.bs.s.u-tokyo.ac.jp/~seigyo/sugi/index.html