多細胞生物では、細胞分裂後に生じる2つの娘細胞が同一あるいは異なる性質を持つことが共に大切である。娘細胞の性質の違いには、細胞分裂面がどこにできるかが一つの鍵となる。本研究では、動物とは異なり細胞壁を持つ生物における細胞分裂面決定の分子機構を探究する。 初年度は、分裂面決定に重要な要素である紡錘体の位置決め機構の一端を解明した。TPX2は動植物で保存された微小管結合タンパク質であるが、ヒメツリガネゴケで変異体を作出したところ、初期茎葉体で紡錘体が5マイクロメートル以上移動し、分裂面が異常になることを見出した。この動きはアクチン繊維の破壊により抑制されたことから、アクチン依存的であることがわかった。植物の紡錘体は動的でないとされてきたが、実際には微小管やアクチンが力を発生して紡錘体の配置を制御していることが示唆された(Kozgunova et al. 2022)。 一方、ヒメツリガネゴケ幹細胞では核の配置が分裂面に影響し、これには微小管とキネシンの働きが必須である。そこで、核運搬を担うキネシンの相互作用因子を通して核の移動機構を探ることを目指した。動物での研究から予想されるSUNタンパク質に着目したが、ヒメツリガネゴケに4つあるSUNがそれぞれ異なる機能を果たすことを示唆するデータが得られたため、次年度にさらに深い解析を継続することにした。
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