研究課題/領域番号 |
22H02645
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石黒 澄衛 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (50260039)
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研究分担者 |
丹羽 智子 中部大学, 応用生物学部, 研究嘱託・研究員 (20835839)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ジャスモン酸 / トマト / 胚形成 |
研究実績の概要 |
ジャスモン酸は病害応答や傷害応答を誘導する植物ホルモンとしてよく知られているが、近年、開花やそれに伴う花器官・生殖器官の成熟にも重要な役割を果たすことが明らかになっている。特に、花粉の成熟や葯の裂開を制御する働きは、シロイヌナズナをはじめとするさまざまな植物で普遍的に認められている。これに対し、ジャスモン酸受容体SlCOI1を欠損するトマトの突然変異体jai1では花粉よりも胚珠に強い影響が現れることから、トマトではジャスモン酸はむしろ雌性器官の成熟に必要であると考えられている。我々は、なぜトマトが特殊な表現型を示すのかに興味を持ち、その理由を明らかにすることを目的として研究を開始した。ゲノム編集によりジャスモン酸合成遺伝子であるSlOPR3を1コピーだけ欠損させたslopr3ヘテロ株を作出し、自家受粉によりslopr3ホモ株を得ようとしたところ、全く得ることができなかった。野生型株とヘテロ株は1:2の割合で生じることから、配偶体の機能は雌雄とも正常と考えられ、受精後の胚形成に異常が生じているものと推定された。興味深いことに、この現象はjai1では見られず、ヘテロ株からホモ株が1/4分離する。したがって、胚形成において胚でジャスモン酸を合成する必要はあるが、受容する必要はないと結論した。さらに詳しく調べたところ、slopr3ヘテロ株の果実には未熟種子が含まれており、その遺伝子型はslopr3ホモであった。この未熟種子の中には正常な胚の形態を示すものが存在せず、細胞の塊が本来胚が存在する場所に認められた。マーカー遺伝子を用いて解析した結果、この細胞塊では細胞の分化や極性の形成が不完全であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノム編集を効率よく引き起こすトマトの形質転換法を確立し、slopr3ヘテロ株を自ら作出することができた。さらに、slopr3変異体へのマーカー遺伝子の導入が順調に進み、共焦点レーザー顕微鏡を用いた胚の観察方法も確立することができて、予備的ながら明瞭なデータを得ることができた。これにより、slopr3が欠損すると発生の初期段階から組織分化や極性に異常がみられることが明らかになり、次年度以降に本格的に実施する予定のイメージング解析の礎とすることができた。まだ十分な結果が得られていないため業績概要には記載しなかった準備段階の実験を含め、予定通りに研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
ジャスモン酸生合成遺伝子の突然変異体が胚に異常を示すのは、知られている限りトマトに限った現象であり、イネやシロイヌナズナでは知られていない。なぜトマトでこの現象が見られるのかに注目しながら、その原因を解明していきたい。今年度の研究で、胚発生の初期から異常が生じることが明らかになったので、その時期に重点を置いて、来年度以降は詳細な形態観察、遺伝子導入による形態変化の解析を進める。今年度は見送ったトランスクリプトーム解析も実施し、ジャスモン酸と共にこの現象の鍵になる遺伝子が何かを明らかにしたい。
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