研究課題/領域番号 |
22H02646
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
荒木 崇 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00273433)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 精細胞 / 父性ゲノム / 配偶子機能 / 制御モジュール / ゼニゴケ / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
研究項目1 DUO1およびRWP1のCitrine knock-in株から Citrine蛍光ポジティブの造精器を摘出し、ChIPseq解析をおこない、両転写因子が精細胞分化過程で結合しているゲノム上の領域に関する良質の知見を得た。変異体における発現解析の結果と合わせて、DUO1によるRWP1遺伝子の、RWP1による3つの精細胞特異的H1バリアント遺伝子の直接的な制御が強く支持された。DUO1とRWP1の一過発現アッセイ実験については、系そのものは機能しているが、ポジティブな結果を得ることができなかった。DUO1あるいはRWP1の他にも必要な因子があると考えられる。被子植物ではこれまで全く見落とされていたRWP1および精細胞特異的と考えられるH1バリアント遺伝子を見出し、変異体の作出に着手した。DN4MT1A,B遺伝子の完全欠失変異体の精細胞の透過型電子顕微鏡観察からは、同遺伝子の精子核凝縮における役割を支持する結果は得られなかった。精細胞特異的な small RNA経路に関しては、隣接して存在するMpPIWIA, MpPIWIB遺伝子、第6染色体に座乗するPHAS遺伝子座のそれぞれの完全欠失変異体の作出に着手した。 研究項目2 KNOX1遺伝子座の逆鎖からの lnc RNA転写(SUK1)を介した発現抑制に関しては、SUK1プロモータ上のRWP1結合モチーフを欠失させた変異体を2株取得した。その後得られたRWP1のChIPseqデータから欠失領域が不十分であることが考えられたため、新たな欠失変異体の作出を進めている。 関連して、DUO1依存の精細胞特異的な選択的スプライシングの制御に関して、RNAseqデータの検証、MBNL遺伝子の変異体作出、RWP1-Citrine knock-in株用いた精細胞分化期の造精器の Iso-seq解析のためのサンプリングなどをおこなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目1 DUO1とRWP1のChIPseq解析をおこない、両転写因子が結合するゲノム上の領域に関する良質の結果を得た。これまでの結果と合わせて、DUO1によるRWP1遺伝子の、RWP1による3つの精細胞特異的H1バリアント遺伝子の直接的制御が強く支持された。結果を踏まえて、一過発現アッセイ実験については、固執せずにいったん中止することにした。最も大きな展開は、被子植物でこれまで全く見落とされていたRWP1および精細胞特異的H1バリアント遺伝子(H1sp)を見出したことで、その解析結果を合わせてより大きな枠組みで論文をまとめることにした。そのためにシロイヌナズナでRWP1およびH1sp遺伝子の機能喪失変異体の作出に着手し、複数の候補を得た。予備的な解析から、rwp1変異体ではH1spおよびH2B.8遺伝子の発現が低下することを示す結果を得た。DUO1→RWP1→精細胞特異的ヒストンバリアントというモジュールがゼニゴケとシロイヌナズナの間で保存されている可能性を示唆する。両種では核凝縮の程度や関わるヒストンバリアントの種類が大きく異なることから、大変に興味深い。さらなる検証のために、rwp1, h1sp変異体の透過型電子顕微鏡観察の準備を進めている。DN4MT1A,B遺伝子の精子核凝縮における役割の解析はいったん終了した。精細胞特異的な small RNA経路に関しては、種々の解析の準備が順調に進んでいる。 研究項目2 RWP1による精子側因子BELL3, 4の発現促進と逆鎖からの lnc RNA転写(SUK1)を介した卵側因子KNOX1の発現抑制については、後者に関して、RWP1のChIPseqデータをもとに新たな解析方針を立てることができた。 関連する、DUO1依存の精細胞特異的な選択的スプライシングの制御に関しても、種々の解析の準備が順調に進捗している。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで、複数の論文、総説(最新のものは2022年5月)で、被子植物にはゼニゴケのRWP1に対応するサブファミリーのRWP-RK転写因子遺伝子は存在しないとされてきた。また、ヒストンH1についても被子植物におけるバリアントの報告は限定的で、コケ植物や動物のような精細胞特異的なバリアントは知られていない。R4年度の研究の過程で、シロイヌナズナ、イネ、トマトにおいて、それら(RWP1, H1sp)が存在することを見出した。また、2022年11月に被子植物特異的なH2Bバリアント(H2B.8)がシロイヌナズナの精細胞における核の圧縮(nuclear compaction)に関わるという報告がなされた。野生型と変異体の三核期の花粉を含む花を用いた予備的な解析から、シロイヌナズナではH1spとH2B.8の発現はRWP1によって制御されていることを示す結果が得られている。これらから、DUO1→RWP1→精細胞特異的ヒストンバリアント→精細胞核の凝縮あるいは圧縮というモジュールが、コケ植物(ゼニゴケ)と被子植物(シロイヌナズナ)の間で保存されていることが推察される。当面は、シロイヌナズナの変異体、発現レポーター株等の解析を最優先に進めて、これを検証し、R5年度前半に論文としてまとめる。 精細胞特異的な small RNA経路、RWP1による精子側因子BELL3, 4と卵側因子KNOX1の発現調節、RWP1依存の精細胞特異的な転写開始点選択、DUO1依存の精細胞特異的な選択的スプライシングの制御については、計画どおり研究を進める。 R4年度に得られたDUO1とRWP1のChIP seqデータの比較から、両転写因子の役割に関して興味深い示唆が得られた。DUO1は、以前の知見と合わせて、パイオニア転写因子として機能する可能性が考えられ、構造生物学者との共同研究により、これを検証したいと考えている。
|
備考 |
研究室のウェブサイト
|