研究課題
本研究では、維管束分化誘導システムVISUALとそれを改良したVISUAL-CCを用いて、木部細胞・篩部細胞そして篩部伴細胞を誘導することで、維管束発生過程を構成生物学的な観点から研究を進めた。VISUAL分化誘導過程の1細胞データの再解析から植物ホルモンのサイトカイニン応答が一過的に生じることを見出した。前年度に作製したサイトカイニンのシグナルを強めたり弱めたり遺伝学的に操作ができる形質転換植物を用いて、維管束発生への影響を確認したところ、VISUALでみられたローカルなサイトカイニン応答が生体内の根における維管束幹細胞の活性化に重要であることを見出した。またサイトカイニン応答は維管束幹細胞の分化能の獲得に働く可能性も新たに見出された。更に1細胞解析を進めたところ、幹細胞化のステージにおいては翻訳制御に関わる遺伝子群が高発現することがわかった、実際に栄養代謝センサーであるTORに対する阻害剤を投与したところ、TORが維管束幹細胞化に働く可能性が見出された。最終年度はTORの働きについてVISUAL及び接ぎ木における維管束癒合を用いて解析を進める。維管束幹細胞の分化運命制御に関しては、VISUALを用いた遺伝学スクリーニングから、誘導時の木部・篩部細胞の比率が変化する新規変異体を見出した。トランスクリプトーム解析から篩部分化が促進され、木部分化が抑制されるという目視で観察された表現型が遺伝子発現の観点からも確認された。また、維管束の一次発生および二次発生過程におけるブラシノステロイドの多面的な機能に関して総説をまとめ、Plant and Cell Physiology誌に発表をおこなった。
3: やや遅れている
2024年1月に神戸大学から大阪大学への異動があり、研究室の引っ越しと立ち上げに時間を要した。その間は情報学解析や研究成果の執筆などに時間を充てたが、分化誘導を必要とする一部の実験計画に遅れが生じている。特に伴細胞分化誘導系の改良は引き続き挑戦していく必要がある。
①維管束幹細胞確立機構:サイトカイニンの維管束幹細胞活性化における役割についてトランスクリプトーム解析、エピジェネティック解析など多角的アプローチから研究を行い、生体内における維管束幹細胞の確立と活性化について理解を深める。今年度はこれらの研究成果を論文にまとめる予定である。また、エネルギーセンサーとして知られるTORが維管束幹細胞の確立に関与する可能性が見出された。TOR阻害剤の遺伝子発現に与える影響を更に詳細に解析することで新たに幹細胞確立の制御メカニズムの解明につなげていく。また、研究分担者・朝比奈と協力をして接ぎ木の維管束癒合過程においても阻害剤を用いた解析からTORの働きを明らかにし、維管束幹細胞確立制御の共通性にせまっていく。②維管束幹細胞の運命制御:VISUALを用いた遺伝学スクリーニングから、誘導時の木部・篩部細胞の比率が変化する新規変異体を見出した。昨年度おこなったトランスクリプトーム解析から篩部分化が促進され、木部分化が抑制されるという表現型が確認された。本年度は、戻し交雑で得られたF2世代を用いて次世代シーケンス解析により原因遺伝子の同定を進めていく。これまで切り込むことができなかった維管束幹細胞分化運命の制御を担う分子メカニズムの解明を目指す。また、維管束幹細胞分化制御を担う転写因子BES1の相互作用因子や標的遺伝子を特定するため、BES1に対して共免疫沈降やクロマチン免疫沈降をおこなう。③篩部伴細胞の発生運命制御:維管束伴細胞分化誘導システムVISUAL-CCの高効率化に向けて伴細胞分化初期マーカーのレポーターを新たに作出した。この新規レポーターの発光輝度を指標に、培養条件のスクリーニングをおこなうことで篩部伴細胞分化誘導系の更なる改良を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (40件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Plant And Cell Physiology
巻: 64 ページ: 1178~1188
10.1093/pcp/pcad084
Genes & Genetic Systems
巻: 98 ページ: 89~92
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Journal of Plant Research
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10.1007/s10265-023-01494-0