研究課題/領域番号 |
22H02650
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
高橋 史憲 東京理科大学, 先進工学部生命システム工学科, 准教授 (00462698)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 環境応答 / 植物ホルモン / タンパク質リン酸化 / 転写調節 |
研究実績の概要 |
乾燥ストレス応答におけるペプチド-受容体の下流で機能する細胞内分子制御機構の解明を目的として、ABA合成酵素の発現を制御するB3転写因子に着目し、その機能解析を行った。本年度は、B3転写因子がストレス依存的およびペプチド-受容体依存的に受けるリン酸化修飾部位のアミノ酸置換を行った過剰発現植物体を用いて解析を進めた。これまでの解析から、B3転写因子は3箇所のアミノ酸部位にリン酸化修飾をうけることを明らかにしている。それら各部位にリン酸化修飾を模倣するアスパラギン酸修飾、脱リン酸化修飾を模倣するアラニン置換を行ったコンストラクトを、シロイヌナズナ葉肉細胞から単離したプロトプラストに導入し、細胞内局在を解析した。その結果、アスパラギン酸、またはアラニンへのいずれの修飾置換を行ったコンストラクトにおいても、B3転写因子は常に核に局在することを明らかにした。またこの局在は、bam受容体変異体から単離したプロトプラスト内においても、同様の傾向を示すことを明らかにした。この結果は、B3転写因子の細胞内局在は、リン酸化修飾によるものではなく、他の核移行制御因子によってストレス依存的、およびBAM受容体シグナル依存的に制御されている可能性を示唆する。次に、リン酸化修飾部位のアミノ酸置換を行った過剰発現植物体を用いて、コントロール条件および乾燥ストレス処理条件下における、ABA合成酵素の発現変動を解析した。その結果、リン酸化修飾を模倣するアスパラギン酸修飾変異を3箇所、置換を行ったB3転写因子では、ABA合成酵素遺伝子の発現が、コントロール植物と比較して上昇していることを明らかにした。したがって、B3転写因子がうけるリン酸化修飾は、細胞内局在ではなく、転写活性化能を制御するために必要であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
B3転写因子は3箇所のアミノ酸部位にリン酸化修飾をうけることを明らかにしている。それら各部位にリン酸化修飾を模倣するアスパラギン酸修飾、脱リン酸化修飾を模倣するアラニン置換を行った過剰発現植物体を用いて解析を行った結果、B3転写因子の細胞内局在は、リン酸化修飾によるものではなく、他の核移行制御因子によってストレス依存的、およびBAM受容体シグナル依存的に制御されていることを明らかにできた。この結果は、本年度の重要な研究成果の一つである。また、これら過剰発現植物体を用いて、コントロール条件および乾燥ストレス処理条件下における、ABA合成酵素の発現変動を解析した結果、リン酸化修飾を模倣するアスパラギン酸修飾変異を3箇所、置換を行ったB3転写因子では、ABA合成酵素遺伝子の発現が、コントロール植物と比較して上昇していることを明らかにできた点が、次年度につながる成果である。特に、リン酸化修飾部位のアミノ酸配列から、B3転写因子をリン酸化するタンパク質リン酸化酵素は、複数の因子群が存在することが考えられるため、B3転写因子の転写活性化能は、BAM受容体の下流において複雑で多段階的な制御を受けていると考えられる。これらの結果を踏まえて、現在、候補となるタンパク質リン酸化酵素にGFPやGST、MBPといった様々なタグを付加させた過剰発現植物体、および大腸菌を用いたタンパク質精製を進めている。さらにラジオアイソトープを用いないin vitroキナーゼアッセイ実験系の確立も行っている。さらにB3転写因子と候補タンパク質リン酸化酵素群との、直接的な結合を解析するための、プルダウンアッセイ実験系、および共免疫沈降法を用いた結合解析のための準備も計画通り進めている。
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今後の研究の推進方策 |
B3転写因子がリン酸化修飾を受けるアミノ酸部位の周辺配列解析から、複数の候補タンパク質リン酸化酵素群を見出している。現在、これら候補因子群の過剰発現植物体、およびin vitroキナーゼアッセイ実験系で用いるタンパク質を大量精製することに成功している。今後は、これら精製タンパク質を用いて、非ラジオアイソトープ実験法により、B3転写因子をリン酸化するタンパク質リン酸化酵素の同定を進める。またリン酸化修飾部位に様々な変異を導入したB3転写因子過剰発現植物体の作成も進んできていることから、これら植物体を用いて、ABA合成酵素の発現を介したABAの蓄積、気孔の閉鎖、乾燥ストレス耐性の獲得に関わる網羅的な遺伝子発現変動やストレス耐性獲得テストを、順次行っていく予定である。更に、前年度、野生型およびbam受容体変異体バックグラウンドで、B3転写因子を過剰発現させた植物体を用いて、網羅的なプロテオーム解析を行い、B3転写因子に、乾燥ストレス依存的、およびBAM受容体依存的に結合する因子群の同定も進めている。現在、これら候補因子の過剰発現植物体の作成も進めている。今後は、これら植物体を用いて、B3転写因子との相互作用をin vitro、in vivo両方の系を用いて解析を進める。また、今年度の解析結果から、これら候補結合因子群は、B3転写因子の細胞内局在の制御に関わることを示唆するデータを得ていることから、プロトプラストや、候補因子群の過剰発現植物体を用いて、B3転写因子との細胞内相互作用、およびストレス依存的、CLEペプチド処理依存的な細胞内局在変化を解析する。bam受容体変異体バックグラウンドでの過剰発現植物体も作成していることから、ストレス依存的に加えて、CLEペプチド-BAM受容体依存的な細胞内制御機構も明らかにできる。
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