研究課題
真核生物の細胞には、細胞核に加えてミトコンドリア、色素体、ペルオキシソーム、小胞体、ゴルジ体など、基本的には5種のオルガネラが存在する。これまで細胞の分裂増殖の基本機構を解明するため、原始紅藻Cyanidioschyzon merolae (シゾン)を使ってゲノム微細構造学的に調べた。その結果、3種のオルガネラ、ミトコンドリア、色素体、そしてペルオキシソームが、独自の分裂装置を使って2分裂して増えていることを解明した。類似の構造の一部は多細胞生物の葉緑体でも見つかっている。更に、シゾンのペルオキシソームとミトコンドリアでは、亜鈴形となった中心部の収縮を司る分裂装置に加え、亜鈴形となった娘オルガネラの両端に電子密度の高い微細顆粒(分配装値)が現れ、分配を支援していることが示唆された(Nishida et al. 2020, kuroiwa et al 準備中)。ミトコンドリアの分配装置は、5種のオルガネラの分裂の最終情報を細胞核に伝え、細胞質分裂を誘起する役目をしていることが明らかとなった(Kuroiwa et al.準備中)。植物界の基本2系統の1つである紅藻類の、始原的な部分に位置するシゾンで得られた、細胞・オルガネラのゲノム形態学的情報と、もう一方の始原緑藻のMedakamo hakoo(メダカモ)のそれとの比較により、真核植物の増殖の基本機構が解明できると考えられた。そこで、昨年 メダカモの細胞構造・機能の解析を進めると共に、多くの専門研究者の協力を得て、細胞核の全ゲノム解読(Kato et al 2023)を行い, 続いて、ミトコンドリアと色素体の全ゲノム解読を行った(Takusagawa et al.2023)。細胞核ゲノムの解読論文は20カ国余りで翻訳され、1年を越えた今日でも世界各国からの問い合わせが続いている。
1: 当初の計画以上に進展している
真核植物細胞の分裂増殖機構の解明を目指し、原始紅藻シゾンを使ってミトコンドリア、色素体、ペルオキシソームのようなオルガネラの分裂装置、分裂機構をゲノム形態学的に解明してきた。その延長として、ミトコンドリアとペルオキシソームで分配装置の存在が明らかになってきた。この結果から、更に始原的な緑藻でも、生物の基本的なオルガネラを含む細胞の分裂増殖の基盤が解明できると考えた。そこで、新たに発見した単細胞緑藻メダカモの、細胞核、ミトコンドリアそして色素体の全ゲノムの解読を遂行した。その結果、メダカモは15.8Mb (Kato et al.2023a), シゾンは16.5Mbとなり、これまで正確にゲノム解析がなされた真核生物中では、メダカモが最少のゲノムサイズであることが分かった。またミトコンドリアゲノムや色素体ゲノムもそれぞれ36.5 kb、90.8 kb(Takusagawa et al. 2023b)で、他の生物と大きく変わることはなかった。メダカモにおいても分裂増殖機構のゲノム形態学的解明を開始した。メダカモはシゾンと同様に高度同調培養が可能(Kato et al.2023a)、オルガネラの単離が可能であることから、単細胞緑藻の応用研究の展開が大いに期待させる。メダカモのゲノムの論文が発表されると、この一年余り、世界中の研究者から、現在でも毎週2-3回の講演・執筆依頼等の問い合わせが続いている。
単細胞紅藻シゾンでは、ゲノム形態学的に細胞増殖におけるオルガネラの増殖の関与が分かってきており、これを基盤に、単細胞緑藻メダカモで比較解析を進めたい。現在未発表ながらミトコンドリアや色素体の分裂装値の存在が示唆されている。単細胞の紅藻と緑藻の両始原的な藻類の完全ゲノム解読を基盤に、オルガネラの微細構造を含め両方を比較することにより、真核植物の基本をゲノム形態学的に解明できると考えている。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)
Genes Genet. Syst.
巻: 98 ページ: 353-366
10.1266/ggs.23-00275