研究課題/領域番号 |
22H02659
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
海谷 啓之 富山大学, 理学部, 客員教授 (40300975)
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研究分担者 |
今野 紀文 富山大学, 学術研究部理学系, 講師 (50507051)
東 森生 自治医科大学, 医学部, 講師 (90709643)
坂田 一郎 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (80610831)
竹見 祥大 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (70871440)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | モチリン / モチリン受容体 / 延髄最後野 / カテコールアミン / メダカ / ネッタイツメガエル / スンクス |
研究実績の概要 |
モチリンは十二指腸で産生・分泌され、ヒトにおいては空腹時に胃を発信源とし下部小腸へと強い平滑筋収縮が伝播する空腹期伝播性強収縮(Interdigestive Migrating contraction(IMC))を引き起こすことが知られているが、それ以外の生理作用がほとんどわかっていない。本研究では、魚類、両生類、哺乳類のモデル動物を用いてモチリンの新規生理作用を探索する。 魚類のメダカ、哺乳類のスンクスにおいてモチリン受容体(MLNR)が延髄最後野で同定されたことから、メダカにおいてMLNR遺伝子発現ニューロンの特性や分布を調べた。その結果、MLNR発現ニューロンはドーパミン作動性であり、迷走葉や迷走神経運動核に軸索が投射され、その後、コリン作動性ニューロンに情報が伝達されることを見出した。この結果をスンクスでも検証していく。両生類のネッタイツメガエルにおいてMLNRが胃、精巣、後腸にあること、またモチリン産生細胞が小腸に存在し、インスリン陽性細胞と共局在していることを見出した。哺乳類のスンクスにおいてはオレイン酸によってモチリンの分泌が亢進する可能性を見出した。 まだ断片的ではあるが、これらの知見を組み合わせ、モチリンの新規生理作用ならびにモチリンの普遍的存在意義を探求していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
魚類のメダカの延髄最後野で同定されたモチリン受容体(MLNR)遺伝子発現細胞がどのような特性を持つ細胞であるかを調べた。その結果、間腎腺と同様にカテコラミン産生細胞であることがわかった。さらに延髄最後野と間腎腺それぞれのカテコラミン産生細胞におけるカテコラミン合成酵素遺伝子の発現プロファイルを調べたところ、延髄最後野の細胞はドーパミン作動性ニューロン、間腎腺はノルアドレナリン産生細胞であることを明らかにした。作出済みのMLNR-EGFPメダカを用いて延髄最後野のMLNR発現ニューロンの投射領域の解析を行った。その結果、脳の迷走葉および迷走神経運動核に軸索が投射されており、さらに迷走神経運動核のコリン作動性ニューロンにはドーパミン受容体が発現することを見出した。 両生類のネッタイツメガエルにおいてMLNR mRNAを部分的に同定し、全身の遺伝子発現分布を調べた結果、胃で最も多く、次いで精巣、後腸であった。またアカハライモリでモチリンが検出できたスンクスモチリンC末認識抗体を使って免染した結果、ネッタイツメガエル小腸でモチリン細胞らしきシグナルを得た。小腸でモチリン細胞はインスリン陽性細胞と局在が100%一致したが、グルカゴン陽性細胞とは一致しなかった。 ヒト十二指腸オルガノイドからのモチリン分泌にGPBAR1、GPR119、FFA1が関与していることが報告されていることから、哺乳類のスンクスにおいて無麻酔無拘束胃運動測定系を用いて、それらの受容体シグナルにより個体レベルでモチリン分泌を引き起こされるかを検討した。GPCAR1、GPR119、FFAR1のagonistであるGPBAR-A、AR231453、Oleic acidを投与した結果、Oleic acidは顕著に胃運動を亢進したことから、モチリンの分泌が亢進していることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
①メダカにおける検討:延髄最後野のモチリンのシグナルはコリン作動性ニューロンに伝達されていることから、次の作動部位を特定し、生理作用の一端を明らかにする。またMLNR遺伝子欠損メダカを作出して解析を進める。スンクスにおいてモチリンの分泌促進因子のひとつがオレイン酸であることが示唆されたことも踏まえ、魚類におけるモチリンの分泌促進刺激を同定していく。メダカモチリン遺伝子の5’上流プロモーター領域にGCamp8遺伝子を発現するトランスジェニックメダカを作製し、成分を変えた餌の給餌や消化管への特定栄養液(例:オレイン酸)の注入を行い、モチリン産生細胞の細胞内カルシウム濃度依存的なGCamp8の蛍光を観察・評価して、モチリン産生細胞がどのような成分に応答するのかを調べる。またメダカモチリンに対する2種類の抗体を委託作製したので、それらの特異性を解析し、メダカモチリンに対する検出法あるいは測定法を確立する。
②両生類における検討:ネッタイツメガエルおよびアカハライモリにおいてMLNR mRNAのクローニングを成功させ、構造や受容体特性を解析する。また受容体の存在分布をin situ hybridizationや免疫染色で明らかにし、モチリンの作動部位を特定していく。ネッタイツメガエル、イベリアトゲイモリにおいてCRISPR-Cas9を用いて遺伝子改変動物の作出を進める。
③哺乳類における検討:スンクスの延髄最後野の細胞においてMLNR mRNAの発現を確認しているが、遺伝子発現量が少なかったことからRNAscopeを用いた増感 in situ hybridization法により発現細胞を特定し、その下流の作動領域の特定を進める。またGONAD法を用いて遺伝子改変動物の作出を進める。
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