研究課題
幼少期や思春期の社会的孤立は、過剰な攻撃性(暴力)のリスク因子であり、適切な介入が求められている。動物モデルにおいても、社会的隔離ストレスが攻撃行動を過剰にすることが明らかとなっている。本研究は、雄マウスを用いて、社会的隔離ストレスが攻撃行動を過剰にする生物学的基盤としての腸内細菌叢の役割を明らかにするとともに、その脳腸相関メカニズムを探索するものである。本実験から、攻撃性の低い集団の雄マウスにおいても、社会的隔離ストレスにより成体期の攻撃行動が増加することが確認された。とくに、離乳してから成体期まで隔離飼育を行うと、通常の縄張り性攻撃行動テストのときだけでなく、攻撃行動を昂進させる操作の1つである社会的挑発を行った際に、集団飼育群よりも大幅な攻撃行動の増加を示すことが明らかになった。一方、思春期後期からの社会的隔離ストレスでは、社会的挑発による攻撃行動の亢進は認められなかった。これらの時期に社会的隔離ストレスを与えた動物において、成体期の腸内細菌叢を調べたところ、腸内細菌叢に変化が生じていることが明らかとなってきた。現在、特定の発達段階における腸内細菌叢の変化が攻撃行動に与える影響を明らかにするために、腸内細菌叢の発達段階特異的な操作を行い、成体期の攻撃行動(縄張り性攻撃行動と社会的挑発による攻撃行動の亢進)への効果を調べている。
2: おおむね順調に進展している
基礎データとして、離乳後社会的隔離ストレスの成体期における攻撃行動と腸内細菌叢への影響の解析が得られた。また、抗生物質投与による発達段階特異的な操作が、攻撃行動に異なる効果を及ぼす可能性が見えてきていることから、当初の予定通りに進んでいる。
1)異なる発達段階における抗生物質投与が攻撃行動に異なる影響を及ぼす可能性が本年度の研究から示されてきたが、もともとの攻撃性が低い系統を用いたことから、その効果が顕著に観察されなかった。そこで、攻撃性の高い系統において発達段階特異的な効果を確認する必要がある。2)離乳後社会的隔離ストレス負荷により雄マウスの成体期の行動と腸内細菌叢に変化が生ずることが示された。この腸内細菌叢の変化がどの発達段階に生じてくるかを把握するために、隔離ストレス負荷中の思春期(4-5週齢)、青年期後期(6-7週齢)の腸内細菌叢解析を行う。3)腸内細菌叢移植により攻撃行動が変化することが私たちの実験から示されてきたことから、それにより変化する代謝産物について盲腸内容物や血漿において調べる。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (2件)
Neuroscience Research
巻: S0168-0102 ページ: 00212-7
10.1016/j.neures.2022.07.009
Nature Communications
巻: 13 ページ: 4039
10.1038/s41467-022-31728-z.
Curr Top Behav Neurosci
巻: 54 ページ: 181-208
10.1007/7854_2021_243
https://trios.tsukuba.ac.jp/researcher/0000003646
https://sites.google.com/view/akitakahashi-tsukuba/home