Y染色体と性決定遺伝子SRYを消失したアマミトゲネズミにおいて、SRY 遺伝子に依存しない有胎盤哺乳類の新しい性決定メカニズムを明らかにする。我々は、これまでに本種の性差が見られるゲノム領域を探索し、SOX9遺伝子の約430 kb上流にオス特異的な重複が存在することを発見した。この重複ユニット内に精巣特異的エンハンサーが存在し、エンハンサーが重複することでSRYなしにSOX9の発現が上昇し、精巣分化が起こりオスとなることを仮定した。本研究では、重複することでSOX9の転写を上方制御するエンハンサーと、そのエンハンサーを標的とする転写因子を特定し、SRY不在下におけるシス因子による性決定メカニズムを解明する。SRYに依らない性決定メカニズムの報告はこれまでに無く、さらにシス因子による性決定メカニズムの発見は、哺乳類においては初めてのものである。 本年度は、アマミトゲネズミのオスのみが持つSOX9遺伝子上流の重複領域34 kbを、マウスの相同配列と組換えたノックインマウスの作成に成功した。マウス作成は、研究協力者の大阪大学 伊川正人教授らにより行われた。作成されたマウスを研究代表者の所属機関である北海道大学に導入し、交配により重複をヘテロでもつXX型個体を得て、外部および内部生殖器官の形態を解剖学的に確認した。また、ジェノタイピング実験系の確立およびノックインマウスのゲノム配列を解読し、34 kbの重複配列に変異が生じていないかなどの確認を行った。
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