本研究では,(1)植物の光受容体における環境感受性が開花特性に与える影響を明らかにすることと(2)日本列島から北極圏に広く分布する植物を例に,植物の光受容体における環境感受性が異なる緯度に生育する植物の間で異なるかを明らかにする研究に取り組んでいる。 初年度は,(2)に関する実験の基礎を確立するために,北極圏に分布する様々な植物から光受容体遺伝子を単離することを行った。植物園などで植栽されている植物を用いて,10種の植物に由来するRNAを抽出した。RNAseq解析の受託サービスを利用し,それぞれの種で発現する遺伝子の塩基配列をde novo解析に適したプログラムを用いて網羅的に構築した。塩基配列を構築したそれぞれの遺伝子に対して,シロイヌナズナの相同遺伝子をBLASTで探索し,光受容体をコードする遺伝子を探索した。その結果,8種についてはphyBの全長に相当する塩基配列を入手することに成功した。また,それ以外の種についてもphyB以外のいくつかのフィトクロム遺伝子の塩基配列の全長を入手することに成功した。これらの塩基配列をもとに,5種を対象にphyB遺伝子の全長をPCR増幅するプライマーを構築し,phyB遺伝子の塩基配列における多型を調べる予備的な実験を行った。その結果,一部の種では異なる緯度に生育する個体の間で光感受性に影響する可能性のあるアミノ酸変異を持つことが明らかになったが,多くの種ではphyBの配列における保存性が極めて高いことが明らかになった。また,5種の植物については,分布全域を網羅するサンプルからゲノムワイドな遺伝的多型を明らかにし,光受容体における変異が自然選択を受けたかを解析するための基礎となるデータを入手することに成功した。
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