研究課題
環境DNAによる沿岸海洋生物多様性の網羅的動態把握に向けた最新技術の実装と検証を行うために,1) 2017年8月から2023年3月まで房総半島11地点において最初の2年間に隔週調査を50回実施し,その後月別調査に替えて44回の調査を実施した(計94回の調査)。それと並行して、2) 日周変動(上げ潮・下げ潮)調査,ならびに、3) 房総半島沿岸全域100地点における空間変動調査を2回に分けて行った。1) については,隔週調査で得られた計550サンプルの魚類環境DNAの定量データに基づき,魚類群集の相互種間強度が水温依存的であることが明らかになり,この研究成果を国際誌 eLife に投稿して論文が受理された。また、同じサンプルを用いて魚類群集の時空間変動を種レベルで解明し、環境DNA国際学会2023で発表した。2) の環境DNAの上げ潮と下げ潮に伴う日周変動については,房総半島と沖縄本島の各3地点で調査を行い,潮位差が1m以上あるような大きな環境変化が起きても,環境DNAで検出される基本的な魚類群集構造には変化がないことが明らかになった。この研究成果については論文原稿ができあがったところで,国際誌への投稿を進める予定である。3) の房総半島全域の計500 km以上に及ぶ沿岸を100地点で網羅した結果,全県で400種余りの沿岸性魚類が検出された。魚類群集の空間分析を行ったところ,種数の緯度勾配や魚類群集構造の地域性などが明瞭に再現され,環境DNAによる地域魚類相調査の有効性が明らかになった。また,魚類だけでなく甲殻類についてもメタバーコーディング解析を行ったところ,同様の傾向があることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
隔週サンプル計550を用いて魚類群集の相互種間関係を情報理論に基づいて定量化したところ,その強度が水温依存的であることを明らかにできた。この研究成果は,進行中の地球温暖化が魚類群集という複雑系に対して何らかの影響を与えることを示した先駆的なものである。また,その他の調査についても実験は概ね順調に進んでおり,論文化も並行して進めているため,概ね順調に進展していると自己評価した。
今後も房総半島11地点の月別調査を継続実施するとともに,未解析サンプルが貯まらないようにメタバーコーディング実験を進めていく予定である。環境DNAサンプルはアーカイフとして蓄積できるため,実験の多少の遅延は問題とならない。また,魚類以外の分類群についても,実験を進めていく予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件)
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