研究課題/領域番号 |
22H02704
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
野口 航 東京薬科大学, 生命科学部, 教授 (80304004)
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研究分担者 |
田中 亮一 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20311516)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 林床草本 / 光合成電子伝達系 / フェノロジー / 光合成の保護機能 |
研究実績の概要 |
林床で同所的に生育する異なる3種類のフェノロジー(春植物、夏植物、常緑草本)の植物種を用いて、光合成電子伝達系の制御機構とその多様性を明らかにする。以下の仮説を立て、検証することを目的とした。 仮説1) 寿命が短い春植物の葉では、低温下でもCO2吸収速度を高くするために、高い光合成電子伝達が維持されるしくみがある。仮説2) 生育期間に被陰される期間が長い夏植物は少ない光でも有効に光合成生産するために、弱光下で光合成電子伝達速度が高い。仮説3) 葉の寿命が長い常緑草本では、林床が明るい冬に低温・強光からの保護機能が変化するとともに、光合成電子伝達速度が増加する。 2022年度は、キャンパス内の落葉樹林の林床に自生する春植物、夏植物、常緑草本種から複数種を選んで、自生地の環境計測(光強度と気温)とともに光合成電子伝達系の季節変化を測定をし、サンプリングを進めた。常緑草本種のショウジョウバカマやイカリソウでは、林床の光環境が明るくなる秋から冬にかけて光化学系IIの電子伝達速度が大きく増加した。酸化しうる光化学系Iの反応中心P700量が冬に減少するとともに、光化学系Iの電子伝達速度の季節変化は小さかった。光化学系IIの電子伝達速度が低い夏季でも、光化学系Iの電子伝達速度が維持され、循環的電子伝達速度が機能している可能性がある。一方、春植物のキクザキイチゲやセツブンソウは、林冠樹木が葉が展開する前に光化学系IIの電子伝達速度が一過的に高く、林冠樹木が葉が展開後すぐに低下した。夏植物のウバユリは林冠樹木の葉が展開する時期に葉が展開し、そのときの光化学系IIの電子伝達速度が一番高く、その後低下していた。サンプリングした葉を用いて、光合成タンパク質の予備的な定量実験を進めた。また光合成色素定量のための精度の高い測定法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キャンパス内の落葉樹林に自生する草本種の光合成電子伝達系を定期的に測定でき、フェノロジーが異なる植物種間で光合成電子伝達系の季節変化の応答性の違いを明確にできた。次年度以降の詳細な解析の基盤となった。また定期的に葉をサンプリングでき、予備的なタンパク質の定量も進められ、光合成色素定量のための精度の高い測定法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に用いた草本種のなかから、春植物キクザキイチゲ、エンレイソウ、夏植物ムサシアブミ、ウバユリ、常緑草本オウレン、ショウジョウバカマを用いる。自生地での光強度と気温の変化を光量子センサーと温度計で継続測定をする。 春植物の葉では低温下での高い光合成電子伝達を維持するためにどのように制御されているかを明らかにするために、2022年度に確立した系を用いて電子伝達速度の温度依存性を測定する。夏植物の光合成電子伝達系は弱光や変動光をうまく利用しているかを明らかにするために、光合成電子伝達速度の光強度依存性の測定とともに、CO2吸収速度の測定を行う。常緑草本では被陰されている夏から明るくなる冬にかけて光合成電子伝達が増加し、低温・強光耐性が獲得されているかを明らかにするために、クロロフィル蛍光とP700吸収とともにCO2吸収速度の測定を行う。サンプリングした葉の色素組成、光合成タンパク質の定量を行う予定である。
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