研究課題
令和4年度は,ヒトとほぼ同じゲノムサイズをもち,遺伝的に多様であるために多くの非リファレンス型挿入配列をもつと考えられる野生ハツカネズミ(Mus musculus)のゲノムデータを用いて,解析手法の評価を行った.既存の解析パイプラインでは一般的なレトロエレメント配列や繰り返し配列の挿入/欠失のみが解析の対象とされているが,より広範なウイルス様配列を探索するために,データベースの整備などを行い,探索パイプラインを構築した.その結果,日本産野生ハツカネズミ29個体の全ゲノム配列データから,LINE/SINE/LTR型のレトロエレメントにおいて,リファレンス配列に存在しない新規挿入約10万箇所が同定された.また,いくつかの座位においてこれまで知られていないウイルス様配列の挿入が見つかった.さらに,別の手法を用いた解析では,フレンド白血病ウイルスへの抵抗性に関わっているレトロエレメント由来遺伝子Fv-1遺伝子の長さを変化させる約1.3kbの欠失が全ゲノム解析によって同定された.この座位で,日本産野生ハツカネズミ集団はcastaneus亜種型の非欠失型のハプロタイプを有意に多くもっていた.日本産野生ハツカネズミの遺伝的背景はほぼmusculus亜種であることがわかっていることから,自然選択の結果形成されたパターンであると考えられる.その検証を行うために,野生ハツカネズミの人口動態モデルを作成し,観察された結果が進化的に中立な条件でどのくらい稀に起こるかについて推定した.今後,解析パイプラインのチューニングや長鎖シークエンサーデータを行い,解析結果の確認を行っていく予定である.また,ハツカネズミ亜種間での挿入頻度の違い等についても解析を行う.
2: おおむね順調に進展している
4年間の計画の初年度であり,方法論の確立について研究を行った.予想以上の結果が得られた反面,解析手法についてはまだ検討する余地が残っている.2年目以降,計画通りにヒトを扱った研究を進めて行く.
令和4年度は,手法の検討のために野生ハツカネズミを扱ったが,予想以上に興味深い結果が得られた.これは,野生ハツカネズミがもつ高い遺伝的多様性や特殊な集団構造の結果である可能性がある.令和5年度は,解析パイプラインのチューニングや長鎖シークエンサーデータを行い,解析結果の確認を行っていく予定である.また,ハツカネズミ亜種間での挿入頻度の違いや,集団構造の影響等についても解析を行う.さらに,新規同定された挿入位置に,セレクティブスウィープなど自然選択の痕跡が見られないかの確認を行う.並行して,ヒトのデータを扱うための倫理的な問題をクリアし,多数のヒトデータを対象にデータ解析を始めていく.
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Genes & Genetic Systems
巻: 97 ページ: 193~207
10.1266/ggs.22-00090
Genome Biology and Evolution
巻: 14 ページ: evac068
10.1093/gbe/evac068
Nature communications
巻: 13 ページ: 3464
10.1038/s41467-022-31133-6