研究課題
本研究の目的はアクティブゾーンの分子構造基盤と神経伝達物質放出の変動に着目し、アクティブゾーンの核心因子であるCAST/ELKSによる分子複合体の動態制御機構を明らかにすることである。今年度では細胞レベルにおけるCAST/ELKSの液-液相分離とRIM1(Rab3-interacting molecule 1)-Rab3相互作用について総合的な解析をした。その結果、CASTとELKSは高頻度で液滴を形成したが、RIM1の液滴形成は低頻度であった。さらに、RIM1の液滴はほとんどが核で形成された。FRAP(Fluorescent Recovery After Photobleaching)による液滴流動性の評価においては、RIM1の核内液滴が最も流動性が高く、CASTが最も流動性が低い結果を得た。注目すべきことに、CASTまたはELKSとRIM1を共発現させると、RIM1の核内液滴は減少し、細胞質の液滴は著しく増加した。さらに、RIM1液滴の流動性は、CASTおよびELKSと結合することにより減少した。RIM1はRab3のエフェクターであり、CAST/ELKSが介在する液-液相分離によるRIM1-Rab3相互作用への影響を解析した。その結果、液-液相分離によりRIM1-Rab3の相互作用が促進されることがわかった。一方、海馬ニューロンを用い、CASTとELKSの近傍に局在する因子を、近位依存性ビオチン標識法により分離・精製し、質量分析により同定した結果、およそ260因子を同定することができた。同定された因子群では、アクティブゾーン構成因子群のほか、シグナルやプロテオスタシス関連因子を含んでおり、CAST/ELKSによるアクティブゾーンサーベイランスの分子基盤として期待された。今後、詳細な解析を行う計画である。
2: おおむね順調に進展している
おおむね当初の計画通り進展しているため。特にアクティブゾーンにおける空間的プロテオミクスの系を確立できたこともあり、順調に進展していると判断した。
CAST/ELKSが介在する液-液相分離によるRIM1-Rab3相互作用の促進メカニズムを分子レベルで解明する。そのため、液-液相分離の阻害剤である1,6-hexanediolを添加し、CAST/ELKSが介在するRIM1の液滴形成を抑制した状況において、Rab3との相互作用がどのように変動するかを解析する。また、液-液相分離しないELKSのN末端欠失変異体と共発現させ、RIM1-Rab3相互作用を解析する。CAST/ELKS近位依存性ビオチン標識によるプロテオーム解析では、領域を拡大し、脳組織においても同様の解析を行う。シナプスアクティブゾーン周辺部のプロテオーム情報を取得することにより、神経伝達におけるアクティブゾーンの役割を解明するための基盤を構築する。さらに、前年度実施した海馬ニューロンでの近位依存性ビオチン標識によるプロテオーム解析の結果から仮説を立て、同定因子との相互作用を評価する。アクティブゾーンにおけるCAST/ELKSの役割を明らかにするために、海馬ニューロンでのCAST/ELKSターゲティング戦略を確立する必要がある。CAST/ELKSのダブルフロックスマウスから海馬ニューロンを培養し、Cre recombinaseを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを作製する。感染タイミング、AAVの量、感染後回収時期などを検討し、CAST/ELKS脱落によるアクティブゾーンの変動を解析する。さらに、電気生理学的解析を組み合わせることにより、構造と機能の相関性を中心的に解析する。Cre recombinase発現AAVをCAP-B10セロタイプで作製し、静脈を介した全脳感染系を樹立する。CAST/ELKS遺伝子の脱落から生じる神経変動を、生化学・免疫組織化学・電気生理学の手法を駆使し解析する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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