研究実績の概要 |
本研究の目的は、マウス小脳の顆粒細胞(Granule Cells, GCs)をモデル神経細胞として「神経前駆細胞が適切なタイミングで適切な数の神経細胞を生み出す仕組み」を明らかにすることである。先行研究で、増殖性の顆粒細胞前駆細胞(GC Progenitors, GCPs)には「未分化なAT+GCPs」と「少し分化したND+GCPs」の二種類があることを見出した。本年度は、ATOH1タンパク質の分解制御という観点から、このAT-NDトランジションのスピードの制御機構について解析した。まず、ATOH1タンパク質の結合分子を小脳エクストラクトからプロテオミクス解析で探索したところ、E3ユビキチンライゲースのCUL3とその関連分子(UBA1, UBE2m,n,t)を同定した。また、培養細胞内で発現させたATOH1のユビキチン化がCUL3のノックダウンで抑制され、ATOH1のタンパク質分解も抑制されたことから、我々はATOH1のユビキチン化と分解にはCUL3(を含むユビキチンリガーゼ複合体)が関与することを明らかにした。過去に我々は、ホメオドメインを持つ転写因子MEIS1(MEIS1-FL アイソフォーム)が顆粒細胞の発生に広く関わることを示した(J. Neurosci 2018)。しかし我々のその後の予備的研究から、AT+GCPsで強く発現するホメオドメインを持たないMEIS1アイソフォーム(MEIS1-HdL)が、AOTH1のユビキチン化と分解を阻害し、AT-ND トランジションを抑える(小脳へのKD導入実験)ということが明らかとなった。さらに我々は、ATOH1とCUL3の結合が、MEIS1-HdLによって抑制されることを見出した。
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