研究実績の概要 |
動物は環境の不確実性を評価し、その状況に適した柔軟な選択を行う。本研究は、嗅覚、視覚、聴覚など異なる感覚情報に基づく知覚意思決定課題を用いて不確実性に基づく知覚認知バイアスの原因になる神経回路の同定を目指す。これまで、研究で嗅覚を用いた意思決定実験系を用い、この行動実験を行っている動物の前頭前野にNeuropixelsプローブを慢性的に留置し多数のユニット活動を計測した上で単一神経細胞に分離していた。今年度はこのデータ解析を行い、特に動物が自らの意思決定の結果に対する確信度に基づいて辛抱強く報酬を待つ戦略を取るセッションと、確信度が低いときには素早く損切りするセッションの間で神経活動動態にどのような相違があるかを解析した。その結果、辛抱強く報酬を待つ戦略をとったセッションのときのほうが多くの神経細胞が分散的にタスク関連情報を表現していることを明らかになった。さらに、や眼窩前頭皮質ー線条体投射細胞を標的としてAAV-retroウイルスベクターを用いて、光遺伝学的(ChR2,Jaws)あるいは化学遺伝学的にその活動を光制御して影響を調べた。ラットが上記行動課題を行っている最中の神経活動操作により、線条体投射細胞の賦活化は報酬待ち時間を短縮させるとともにエビデンス依存性が減弱する傾向にあったが、抑制時は逆向きの効果が現れた。これらの結果は眼窩前頭皮質における不確実性の情報表現が行動戦略として表出される最に読み出されることを示唆している。またこれらの実験系と平行して、マウスの頭部固定実験系を用いた新たにタスクを開発し視覚刺激弁別を行う際にシータ波などの神経振動の修飾があることを明らかにした。また、不確実性下の嗅覚弁別を評価する行動実験系を確立した(Shiotani et al., 2024)。
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