研究課題/領域番号 |
22H02745
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
濱島 義隆 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (40333900)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有機硫黄化合物 / 有機光触媒 / C-H変換反応 / 還元 / グリーンケミストリー |
研究実績の概要 |
持続可能な社会に向け、太陽光を利用する省資源、省エネルギーの触媒的合成が注目を集めている。これまでは高価な遷移金属錯体を光触媒とする方法が殆どであるが、触媒量とはいえ、より安価な光触媒への代替が望ましい。我々は、2021年に安価なチオ安息香酸 (TBA)が光励起性還元作用と水素引抜き作用という二重触媒作用を示すことを見出し、ベンジルアミンやエーテルのC-Hアリール化反応を開発した。本研究ではこの成果を基盤として硫黄含有分子の光触媒活性を探索し、医薬品合成への応用を目指した反応の開発に取り組んでいる。 初年度は、先行研究をもとにアリルアミンの直接的変換法を検討し、初のアリルアミンのC-Hアリール化に成功した。しかしながら、還元電位がより深い4-シアノピリジンとのピリジル化の効率には改善の余地があったため、今年度はTBA誘導体化を検討した。精製上の問題等があったが、種々の誘導体に適用できる合成法を確立した。期待通り、電子供与基を有するTBA誘導体は光励起性還元力が増強され、4-シアノピリジンの一電子還元が加速されたためと考えているが、アミンのC-Hピリジル化の収率を大幅に改善できた。また、アリルアミンとのカップリングパートナーを電子不足アレーンからケトンに変更したところ、ケチルラジカルが発生しアリルアミンとのガンマ位選択的ヒロドキシアルキル化反応が進行することを見出した。 一方、チオウレア触媒の計画については、可視光領域の光を吸収するにはベンゾチアゾール環が重要であることを突き止めた。チオウレアのもう一方の置換基の検討により、ジクロロメタンなどの低極性溶媒にも溶解させることに成功した。さらに期待したように、チオウレアが光励起によりフタルイミドエステルを一電子還元できることを明らかにできた。今後、チオウレアの光特性を詳細に検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規な有機光触媒として設計したチオカルボン酸誘導体とチオウレア触媒の合成法の確立に時間を要していたが、本年度、それらの合成法を確立することができた。チオカルボン酸誘導体については、光触媒活性の改善をモデルケースにおいて確認することができた。研究を加速できる態勢を整備でき、申請書の計画におおむね追いつくことができたと判断している。また、チオウレアの研究については、チオウレアの構造活性相関研究から光触媒特性に必要な構造要素を明らかにし、かつ溶解性などの物性も改善できた。研究計画書の方針に従った機能評価を開始し、予備的な成果を得ることができた。 以上のことから、本研究は順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
本申請で設計した2種類の触媒について、本年度、一般的な合成法を確立することができた。触媒機能の調整に必要な置換基を容易に導入することができるようになったため、誘導化した触媒の光特性を分光学的に調査し、その特性に合わせてモデル反応を選択する。モデル反応において触媒の構造最適化及び反応条件の最適化を行う。チオ安息香酸の研究においては、申請時の計画に従い、アミンやエーテルのアルファ位より活性化が困難とされるC-H結合の選択的活性化及び還元電位の大きい電子受容体の適用について検討を行い、チオ安息香酸の二重触媒作用の一般性及び有用性を確認していく。実現できた反応を多官能性分子の選択的変換に適用し、医薬農薬の効率的合成に応用可能かを検証する。一方、チオウレアの研究に関しては、光励起性還元作用の予備的知見を得ることができているため、今後、どのような分子を還元できるのか、またその特徴は何かに焦点を当てつつ、チオウレアの光特性を明らかにしていく。
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