研究課題/領域番号 |
22H02800
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
三木 隆司 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (50302568)
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研究分担者 |
波多野 亮 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (60521713)
李 恩瑛 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (60583424)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 胆汁酸 / 脂肪肝 / マルチオミクス解析 / 腸内細菌叢 |
研究実績の概要 |
我々は胆汁酸TIBAをマウスに投与すると、高脂肪食負荷による脂肪肝が強力に抑制されることを見出し、本研究でその分子機構を解明し、TIBAの新たな脂肪肝治療薬としての有用性を検証することを目指している。さらに、このTIBAと分子構造が極めて類似した他の胆汁酸では脂肪肝抑制効果が見られないことにも着目し、胆汁酸の僅かな構造の違いが、どの様な機序で異なる生体作用を惹起するのかを解明することが大きな目標となっている。 TIBAの作用標的分子としては、胆汁酸の細胞膜受容体TGR5あるいは核内受容体FXRの関与が強く疑われた。そこで、これらの分子機序を解明するには、肝細胞株を用いてTIBAの脂肪肝抑制効果を検証できるin vitro実験系を立ち上げることが必須であった。しかしながら昨年度まで、複数の肝細胞株あるいはマウスの初代培養肝細胞にTIBAを処置する様々な実験を続けてきたが、脂肪肝抑制は全く誘導されず、各胆汁酸の構造特異的作用機序の実験を進めることが極めて困難であった。しかしながら、我々の実験結果はTIBAが直接肝細胞に作用していないことを示すことに気付き、TIBAが肝臓以外の臓器に作用している可能性と、肝臓内の肝細胞以外の細胞に作用している可能性を検証した。そして、腸内細菌叢の関与を疑う解析結果が得られたことから、TIBAを長期投与した際の血中の胆汁酸組成を調べたところ、腸内細菌叢によりTIBAが他の胆汁酸とは全く異なる代謝を受けることを発見し、長期投与後の胆汁酸組成が各胆汁酸間で大きく異なることを見出した。さらに、TIBAが肝細胞に直接作用するのではなく、免疫系細胞の機能を介して脂肪肝抑制効果を示していることも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記の通り、令和5年度初めの時点で、TIBAが間接的に作用し肝細胞への中性脂肪蓄積を抑制していると推測するに至った。しかし、肝細胞株を用いたin vitro解析ではTIBAの脂肪肝抑制機能が全く見られなかったことから、TIBAの作用機序の解明には、全く違うアプローチの実験を計画する必要性が生じた。即ち、本研究の申請当初は、各胆汁酸とTGR5やFXRとの結合動態解析や細胞内シグナル解析から、TIBAの構造特異的な作用機序を解明する計画であった。しかしながら、肝細胞へのTIBAの直接作用が認められないうえ、既報の論文に示された各種胆汁酸と受容体の間の結合能解析や下流シグナルの解析結果は、我々のマウス個体レベルでの各胆汁酸の脂肪肝抑制効果の違いとは全く合致しなかった。さらに我々のマウス投与実験の結果でも、各胆汁酸投与後のTGR5やFXRの下流シグナルには差が認められず、解析は一時暗礁に乗り上げた。 しかしながら我々は、胆汁酸が腸内細菌叢によりさらなる代謝を受けることに着目し、「腸内細菌叢機能を介して各胆汁酸が違う生体作用を発揮するのではないか」と疑った。そして血中の胆汁酸組成の変化を解析したところ、TIBAの長期投与により他の胆汁酸とは全く異なる血中の胆汁酸組成が構築されることを見い出し、この違いが各胆汁酸の生体作用の違いをもたらすことが明らかになった。さらに並行して進めていた実験から、TIBAの脂肪肝抑制機序に免疫系細胞の機能が必須であることも見出した。 この様なことから、本研究で目指してきた胆汁酸の構造特異的な採用機序の発現に腸内細菌叢での胆汁酸代謝が関与していること、TIBAの脂肪肝抑制に免疫系細胞の機能が必須であることが明らかになったことから、本研究で目指す全貌の解明に大きく近づいてきたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、TIBAの長期投与による生体内の胆汁酸組成変化の解析により、胆汁酸の長期投与すると血清中の胆汁酸組成が各胆汁酸により全く異なることを見出した。そこで、今後、 [課題1]TIBAの脂肪肝抑制効果における肝臓内自然免疫細胞の寄与とその作用機序の解明と、[課題2]各臓器での胆汁酸組成の測定と腸内細菌叢のマイクロビオーム解析を行う。 [課題1]TIBAの脂肪肝抑制効果における肝臓内自然免疫細胞の寄与とその作用機序の解明:今後(1)マウスから単離した自然免疫細胞にTIBAを処理し、分泌されるサイトカインをし、どのようなシグナルが活性化されているかを解析する。(2)変化したサイトカインをマウス単離初代培養肝細胞あるいは肝細胞株に処置して、遺伝子発現や細胞特性の変化を解析すると共に代謝フラックス解析により酸素消費量や脂肪酸代謝の変化を解析する。(3)マウスにTIBAを処置した際の肝臓内の自然免疫細胞の量的変化をFACS解析して解明する。これらの解析を通じて、TIBAがどのような自然免疫細胞系に作用し、肝細胞での脂肪代謝を変化させるかを解明する。 [課題2]各臓器での胆汁酸組成の測定と腸内細菌叢のマイクロビオーム解析:マウスへのTIBAの長期投与により、投与する胆汁酸の種類により血液中の胆汁酸組成が大きく変化したことから、各胆汁酸の化学的構造に着目し、胆汁酸組成に大きな差異を誘導した原因を解析する。一方、宿主が産生した胆汁酸と経口的に摂取した胆汁酸はいずれも腸内細菌叢の影響を受けてさらに二次胆汁酸へと代謝される。このことから、胆汁酸組成の違いを解析する目的で、胆汁酸投与時の腸内細菌叢の変化を糞便のマイクロビオーム解析により解明する。これらの解析を通じて、TIBAが腸内細菌叢やそれらが産生する胆汁酸組成をどのように変化させるかを解析し、これらの脂肪肝抑制機序との関連の解明を目指す。
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