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2022 年度 実績報告書

細胞内ナトリウムポンプ小胞を基点とする新規がん細胞生存機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 22H02801
配分区分補助金
研究機関富山大学

研究代表者

酒井 秀紀  富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (60242509)

研究分担者 奥村 知之  富山大学, 学術研究部医学系, 講師 (10533523)
藤井 拓人  富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (50567980)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードナトリウムポンプ / がん細胞 / アノイキス耐性 / 血中循環腫瘍細胞 / 小胞
研究実績の概要

通常、細胞は足場を失うと、アポトーシス性細胞死の「アノイキス」が引き起こされるが、がん細胞は原発組織から剥がれても、他の組織に生着し増殖する「細胞死回避機構」を有している。我々は最近、P型ATPaseのナトリウムポンプα3アイソフォーム(α3NaK)が、がん細胞内の小胞に高発現しており、がん細胞の足場からの剥離により、α3NaKが、原形質膜に移動することを見出した。本研究では、α3NaKがアノイキス回避の司令塔として機能するという仮説を立て、がん細胞における局在変化がアノイキス回避を誘導するメカニズムの解明やこのメカニズムを破綻させる化合物を探索することを目的としている。
本年度はまず、ヒト膵臓がん由来のMia Paca2細胞において、接着状態から剥離状態にすることで、原形質膜のα3NaK発現が顕著になることを確認した。剥離したMia Paca2細胞に、植物由来強心配糖体のジゴキシンを適用すると、カスパーゼ活性が上昇しアポトーシスが誘導されることを見出した。有意な効果は20 nMの低濃度から観察された。一方、接着細胞に対して、ジゴキシンはアポトーシスを引き起こさなかった。次にMia Paca2細胞またはヒト胃がん由来MKN-45細胞をマウスに皮下投与した後(4-6週間後)に採血を行い、EpCAMの発現を指標として血中循環腫瘍細胞(CTC)を同定する方法を確立した。興味深いことに、免疫細胞染色実験から、CTCの原形質膜にα3NaKが発現していることを見出した。
細胞レベルで、α3NaK発現小胞のイオン動態測定の方法を確立するため、P型ATPaseのATP13A2をリソソームに発現させた細胞におけるK+輸送の検討を行った。アイソトープ(86RbCl)を取り込ませた細胞をサポニンで5分間処理し、原形質膜のみを透過性にすると、ATP13A2による86Rb+輸送を定量的に測定できた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度の4つの研究項目のうち、1)α3NaK発現小胞の実体と機能の解明については、細胞レベルで、サポニンとアイソトープを用いて細胞内小胞のイオン動態測定の方法を確立した。2)α3NaK以降のアノイキス回避シグナル系の解明については、現在種々のシグナル経路の関与について検討している。3)アノイキス回避シグナルを遮断する化合物の探索については、これまでにジゴキシンがアノイキス回避を解除し、剥離がん細胞のアポトーシスを引き起こすことを見出した。4)腹水中の浮遊がん細胞、CTCおよび原発がん組織におけるα3NaKの発現と機能の解明については、マウスにヒトがん細胞を皮下注射した後で、血液を採取しCTCを同定する方法を確立するとともに、CTCの原形質膜にα3NaKが発現していることを見出した。以上の成果を総合的に勘案し、「おおむね順調に推移している」とした。

今後の研究の推進方策

今後、α3NaK発現小胞におけるナトリウムおよびカリウムイオンの輸送機能を検討するとともに、がん細胞の剥離により時間依存的に発現が変化する遺伝子およびタンパク質を網羅的に解析する。また、ヒキガエル由来の各種強心配糖体を、剥離がん細胞に作用させ、アノイキス回避シグナルに対する抑制効果を検討する。さらに、本年度に確立したCTC同定技術をさらに改良し、マウスの血液中に存在するCTCを迅速かつ正確に定量する方法を構築し、各種強心配糖体の投与がCTCに及ぼす効果を検討する。マウス胃にMKN-45細胞を移植することで肝転移を伴うCTCバイオアッセイモデルの作製も行い、各種強心配糖体の投与が、α3NaKの発現や局在、がんの転移や細胞増殖に及ぼす効果を同一マウスにおいて検討する。主として以上の実験を遂行することで、本研究課題を推進する。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件)

  • [雑誌論文] Polycystic kidney disease 2-like 1 channel contributes to the bitter aftertaste perception of quinine2023

    • 著者名/発表者名
      Takahiro Shimizu, Takuto Fujii, Keisuke Hanita, Ryo Shinozaki, Yusaku Takamura, Yoshiro Suzuki, Teppei Kageyama, Mizuki Kato, Hisao Nishijo, Makoto Tominaga, Hideki Sakai
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 13 ページ: 4271

    • DOI

      10.1038/s41598-023-31322-3

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Activation of mouse Otop3 proton channels by Zn2+2023

    • 著者名/発表者名
      Takuto Fujii, Takahiro Shimizu, Yukino Kaji, Mizuki Katoh, Hideki Sakai
    • 雑誌名

      Biochemical and Biophysical Research Communications

      巻: 658 ページ: 55-61

    • DOI

      10.1016/j.bbrc.2023.03.066

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Parkinson's disease-associated ATP13A2/PARK9 functions as a lysosomal H+,K+-ATPase2023

    • 著者名/発表者名
      Takuto Fujii, Shushi Nagamori, Pattama Wiriyasermkul, Shizhou Zheng, Asaka Yago, Takahiro Shimizu, Yoshiaki Tabuchi, Tomoyuki Okumura, Tsutomu Fujii, Hiroshi Takeshima, Hideki Sakai
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 14 ページ: 2174

    • DOI

      10.1038/s41467-023-37815-z

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 強心配糖体を用いたCTC制御機構の解明2023

    • 著者名/発表者名
      藤井拓人, 沼田佳久, 清水貴浩, 奥村知之, 藤井努, 酒井秀紀
    • 学会等名
      第6回CTC臨床応用研究会
  • [学会発表] Pathophysiological function of the sodium pump abnormally expressed in intracellular vesicles of gastrointestinal cancer cells2023

    • 著者名/発表者名
      藤井拓人, 加藤瑞希, 清水貴浩, 酒井秀紀
    • 学会等名
      日本生理学会第100回記念大会
  • [学会発表] Is expression of the Na+,K+-ATPase α4 isoform testis-specfic?2023

    • 著者名/発表者名
      加藤瑞希, 緒方萌乃, 田渕圭章, 藤井拓人, 清水貴浩, 酒井秀紀
    • 学会等名
      日本生理学会第100回記念大会
  • [学会発表] 強心配糖体によるグルコース輸送体GLUT1の動態変化を介したがん細胞解糖系抑制機構2023

    • 著者名/発表者名
      藤井拓人, 加藤瑞希, 清水貴浩, 酒井秀紀
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] がん細胞特異的小胞を標的としたグルコース輸送体の動態制御機構2022

    • 著者名/発表者名
      藤井拓人, 加藤瑞希, 清水貴浩, 田渕圭章, 清水康晴, 竹島浩, 酒井秀紀
    • 学会等名
      2022年度生理研研究会「上皮膜輸送と細胞極性形成機構の統合的理解を目指して」
  • [学会発表] がん細胞のNa+,K+-ATPaseに対する強心配糖体の作用2022

    • 著者名/発表者名
      藤井拓人, 清水貴浩, 酒井秀紀
    • 学会等名
      生体機能と創薬シンポジウム2022
  • [学会発表] がん細胞におけるNa+,K+-ATPaseとCl-チャネルの新規病態生理機能2022

    • 著者名/発表者名
      藤井拓人, 清水貴浩, 酒井秀紀
    • 学会等名
      第96回日本薬理学会年会
  • [学会発表] 強心配糖体は細胞内Na+,K+-ATPaseを標的としてヒトがん細胞におけるGLUT1依存性のグルコース取り込みおよび解糖系を抑制する2022

    • 著者名/発表者名
      藤井拓人, 加藤瑞希, 清水貴浩, 田渕圭章, 清水康晴, 竹島浩, 酒井秀紀
    • 学会等名
      第96回日本薬理学会年会
  • [学会発表] 細胞内の小胞体に発現する新規K+ポンプの生理機能解明2022

    • 著者名/発表者名
      三浦基, 藤井拓人, 清水貴浩, 酒井秀紀
    • 学会等名
      日本薬学会北陸支部第134回例会
  • [学会発表] リソソームにおけるカチオンポンプの新規生理機能2022

    • 著者名/発表者名
      藤井拓人, 永森收志, Wiriyasermkul Pattama, 田渕圭章, 清水貴浩, 竹島浩, 酒井秀紀
    • 学会等名
      2022年度生理研研究会「細胞の局所コミュニティ研究会」

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公開日: 2023-12-25  

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