研究実績の概要 |
造血幹細胞(HSC)は自己複製能・多分化能に優れ一生に渡って血液細胞を供給し続ける体性幹細胞であり、HSCの移植は既に多くの血液疾患の根本的な治療法として確立されている。さらに臓器移植レシピエントへのドナー由来HSCの移植は血液キメラの形成を介してドナーに対する免疫寛容の誘導に応用されている(Kawai, NEJM, 2008)。加えて実験的な取り組みではあるが自己免疫疾患の治療にも応用されており、例えば1型糖尿病モデルマウスにアロのHSCを移植することで病態が改善したことが知られている(Beilhack, Diabetes, 2003)。またヒトにおいてもHSCの移植を受けた患者において1型糖尿病の病態が改善した症例が報告されている(McCabe, Pediatric Diabetes, 2017)。このようにHSC移植により治療可能な疾患領域は幅広く、さらなる発展が望まれる。しかしHSC移植はドナーの負担が大きく、レシピエントに侵襲性の高い移植前処置を施す必要があるため、現状では白血病など致死性の高い疾患への応用が主体となっている。 そこで我々はこれらの問題の解決を目指し、ドナーの提供に依存しないHSCの入手方法としてiPS細胞技術の応用を考案した。iPS細胞由来の中胚葉系細胞に転写因子Lhx2を強制発現させることでc-kit+Sca-1+Lineage marker-の造血幹・前駆細胞(iHSPC)を含む血液細胞が得られることが知られる(Kitajima, Blood, 2011)。本研究では、iHSPCの効率的な誘導法を検討し、それをアロの移植に応用する。前処置やその他の薬剤との組み合わせを工夫することで、生着成績を高めることを目指す。さらに、iHSPCを用い、他の免疫疾患の制御が可能であるかどうか検討を行う。
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