研究課題/領域番号 |
22H02850
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
尾松 芳樹 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 准教授 (80437277)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 造血幹細胞ニッチ / 慢性骨髄性白血病 / 線維化 / 骨髄 |
研究実績の概要 |
CXCL12高発現細網細胞(CAR細胞)は、骨髄で造血幹細胞を維持するために必須の特殊な微小環境(ニッチ)を構成する間葉系幹細胞である。造血器腫瘍、感染、炎症等によってCAR細胞は変質し造血ニッチとしての機能が低下することが明らかになってきているが、CAR細胞の変質を惹起する鍵となる刺激やシグナル経路などの分子機構のほとんどは不明である。そこで本研究では、慢性骨髄性白血病、骨髄線維症、敗血症などの疾患モデルを用いてCAR細胞の変質を惹起する主要なシグナル経路を特定し、その変質を促進または抑制する分子機構を解明する。それによりCAR細胞の変質を制御可能とすることを目指す。 これまでの研究により、CAR細胞の形成と機能に必須の転写因子としてFoxc1とEbf3/1が明らかになっていた。さらにCAR細胞が骨形成に必須の転写因子Runx2と造血幹細胞の発生に必須の転写因子Runx1を共に高発現していることを見出したが、これらRunx転写因子のCAR細胞における役割は不明であった。そこでRunx1およびRunx2のCAR細胞特異的遺伝子欠損マウスを作製し解析を行った。その結果、Runx1とRunx2の両方をCAR細胞特異的に欠損させたマウスでは骨髄が著しい線維化を呈し、造血幹細胞・前駆細胞および分化細胞の数が著減することが明らかになった。一方骨髄線維症モデルマウスを用いた解析により、線維化した骨髄から得られたCAR細胞はRunx1とRunx2の発現が有意に低下していることが明らかになった。以上によりCAR細胞においてRunx1とRunx2は骨髄の線維化を抑制し、造血幹細胞ニッチの維持に必須の役割を持つことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究により、CAR細胞の形成と機能に必須の転写因子としてFoxc1、Ebf3/1に加えてRunx1/2が明らかになった。CAR細胞においてRunx1とRunx2は線維化を抑制し、造血幹細胞ニッチの維持に必須の役割を持つことが示された。 BCR-ABLトランスジェニックマウスによるCMLモデル、TPO遺伝子を強制発現させた骨髄幹・前駆細胞分画の移植によるPMFモデル、LPS投与による敗血症モデル等の疾患モデルマウスを用いてCAR細胞の遺伝子発現、分化能、細胞周期などの変化を経時的に解析した。その結果、CAR細胞の形成と機能に必須の転写因子やサイトカイン遺伝子の発現が多くの場合で有意に低下することが明らかになった。その程度や経時変化パターンは疾患モデルによって様々であることも明らかになった。 CAR細胞はTNFやIL-1βなどの炎症性サイトカイン受容体や、PDGF、BMP、FGFなどの成長因子の受容体を発現している。これらの受容体を介したシグナルがCAR細胞を変質させるか否かを明らかにするため、これらの遺伝子のCAR細胞特異的欠損マウスの作製を計画・進行している。 さらに、CAR細胞の変質に伴って発現が上昇する機能不明の転写因子様の遺伝子が複数同定されたため、この遺伝子のCAR細胞の変質における役割を検討するため、遺伝子改変マウスの作製に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き種々の疾患モデルを用いてCAR細胞の変質の分子機構について解析を行う。 CAR細胞に発現する様々な炎症性サイトカイン遺伝子や、変質に関与する可能性のある機能不明遺伝子について、CAR細胞特異的欠損マウスを作製する。これらの遺伝子改変マウスを用いて疾患モデルマウスを解析することにより、CAR細胞の変質における主要なシグナル経路を特定し、その変質を促進または抑制する分子機構を明らかにする。 また疾患モデルにおける骨髄細胞の、シングルセルレベルでの遺伝子発現解析を行い、CAR細胞の変質を引き起こす主要な細胞集団を明らかにする。 さらにCAR細胞は採取できる細胞数が少ないため、ChIP-seqなどの解析を行うことが困難であるが、現在ChIL-seq等の新規手法が開発されており、少ない細胞数でもエピジェネティックな解析が可能となりつつある。そこでCAR細胞の変質に伴うエピゲノム変化についても解析を試みる。
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