研究課題
これまでに、内在性レトロウイルス(ERV)抑制の主要因子であるTRIM28分子が免疫細胞で強くリン酸化を受けている事、このリン酸化が老化マウスで低下する事、TRIM28分子を欠損したマウスではヘルパーT細胞活性化を伴う自己免疫疾患を発症したり、ERV脱抑制を伴う炎症反応が起こったりする事を報告してきた。がんにおいてTRIM28は悪性化因子とされ、TRIM28によるERV抑制を介したインターフェロン反応の抑制が考えられた。腫瘍と、これを攻撃する免疫細胞の両者についてTRIM28の阻害効果を明らかとすることを目的とする。まずThe Cancer Genome Atlas (TCGA)を解析する事で、ヒトがんにおけるTRIM28の発現を調べたところ、TRIM28の発現量に患者間で多きな多様性があること、TRIM28の発現量と生命予後が逆相関する事がわかった。興味深い事に、TRIM28を高発現する多くのがんにおいては腫瘍組織のpurityが高く、T細胞の浸潤度が低い事がわかった。これは、TRIM28が、有用な免疫細胞の浸潤を抑制しているという事を示唆する。次に、免疫細胞におけるTRIM28欠損マウスについて、同系腫瘍移植モデルを行ったところ、野生型マウスに比して顕著な腫瘍成長の低下が見られた。TRIM28欠損マウスにおいては腫瘍浸潤T細胞の増加が起こり、一方で免疫抑制を起こす制御性T細胞の浸潤が低下していた。以上の結果から、TRIM28の阻害は腫瘍免疫を増強すると考えられた。また、スクリーニングによってTRIM28の阻害薬候補を数種類見出し、いくつかの化合物についてがんにおける効果を検証した。予想に反して、PKD阻害薬が強くT細胞を抑制する事を見出した。がん治療という側面からはネガティブデータではあったが、自己免疫疾患の治療には有用であることがわかり、論文報告した。
2: おおむね順調に進展している
TRIM28が腫瘍そのものの成長、および腫瘍免疫の両方に関わるデータを得られた。TRIM28を標的とした阻害剤についても免疫反応を大幅に制御するものが複数得られており、当初目的を達成していると自己評価した。
ヒトがんについては、TRIM28低発現の患者にHERVが新規抗原として発現するか否かの検討を行う。TRIM28欠損マウスにおける腫瘍免疫の増強についてメカニズムを解析する。TRIM28阻害剤については、引き続き同系腫瘍移植モデルを用いて阻害剤候補の免疫増強効果を検討する予定である。
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Cell Reports
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International Immunology
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