研究課題/領域番号 |
22H02860
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
由井 克之 長崎大学, 熱帯医学研究所, 特命教授 (90274638)
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研究分担者 |
井上 信一 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (20466030)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マラリア / T細胞 / 慢性感染 / 免疫記憶 / サイトカイン / 遺伝子発現 / 分化 / マウス |
研究実績の概要 |
1)IL-27中和マウス内PbT-II細胞のフローサイトメトリー解析 マラリア原虫特異的T細胞受容体トランスジェニックマウスPbT-IIのCD4+T細胞をC57BL/6マウスに受身移入し、マラリア原虫Plasmodium chabaudiの感染実験を行った。抗体によりIL-27を中和する群と、IgGコントロール抗体投与群を比較し,感染後、脾臓PbT-II細胞のフローサイトメトリー解析を行った。 感染7日目、中和群とコントロール間に顕著な差は認めなかったが、14日目以降中和群ではCD127+KLRG1-細胞とCD127-KLRG1+細胞の比率が高く、またCXCR6+Tbet+のTh1型の細胞の比率が顕著に高くなった。一方コントロール群はCD127-KLRG1-かつTbet-TCF1+が多数であった。マラリア原虫感染初期の限定的IL-27中和により、成熟分化する原虫抗原特異的CD4+T細胞がTh1型優位になることが明らかになった。 B)シングルセル遺伝子発現解析 同上の実験モデルマウスからPbT-II細胞をソーティングにより分離精製し、シングルセルRNAseqライブラリーを作成して次世代シーケンサーにより遺伝子発現解析を行った。クラスタリング解析等により、感染7日目のPbT-II細胞はTh1型、Tfh型、記憶前駆細胞型の遺伝子発現をする細胞がほぼ三分の一づつを占めること、IL-27中和群とコントロール群の間には細胞数比率に多少の違いはあるものの、質的には大差ないことが明らかになった。一方、感染28日目のIL-27中和群のCD127+KLRG1-細胞とCD127-KLRG1+細胞は、共にTh1様の遺伝子発現を示すが、発現する遺伝子のパターンは大きく異なっていた。IL-27を感染初期に中和すると、ユニークなTh1型の原虫抗原特異的CD4+T細胞が分化し維持されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性型マラリア原虫感染モデルにおいて、T細胞受容体トランスジェニックマウスを用いたCD4+T細胞のモニター系は確立している。この系を用いて、マラリア原虫感染急性期から慢性期にかけてのマラリア原虫抗原特異的CD4+T細胞のモニターを行い、サイトカインIL-27欠損マウスでは特異的CD4+T細胞が高いレベルで長期間維持されることを明らかにしてきた。さらに、IL-27遺伝子欠損マウスと同様な効果を得られる抗IL-27抗体の投与による中和条件を明らかにした。 また、マラリア慢性期における特異的CD4+T細胞の表現系と機能解析の結果から、IL-27中和条件では通常ではあまり出現しないユニークなCD4+T細胞が、抗原に応答して分化することを明らかにした。これらの細胞は、CD127+KLRG1-あるいはCD127-KLRG1+の表現系を示した。 マウスにPbT-II細胞を移入してマラリア原虫感染を行った後、急性期と慢性期の感染マウス脾臓からPbT-II細胞を分離精製し、シングルセルレベルの網羅的遺伝子発現解析を行った。データ解析の結果から、マラリア原虫感染におけるIL-27中和条件で分化するCD4+T細胞のユニークな性状がさらに詳細に明らかになった。 これらの進捗状況は実験計画に即しており、実験条件の確定と新たなT細胞群の発見に結びついており、順調である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、IL-27中和条件においてマラリア原虫感染マウスの慢性期に誘導されるユニークな記憶型CD4+T細胞の存在が明らかになってきた。シングルセルレベルの遺伝子発現データなどをさらに詳細に検討し、これらCD4+T細胞の性状解析をさらに進める。 これらユニークなCD4+T細胞は、マラリア原虫感染後長期間維持されるが、その維持における原虫感染、原虫抗原の存在やサイトカイン環境の役割についても解析を加える。さらにマラリア原虫の感染防御において、上記のユニークな記憶型CD4+T細胞がどのような働きを有するのかについても明らかにする。 また、IL-27欠損した際に、どのようなメカニズムでこれらのユニークな記憶型CD4+T細胞が誘導されるのか、換言すれば、通常はこれらユニークな記憶型CD4+T細胞の分化がIL-27により抑制されるメカニズムは何か、について明らかにする。特に、抗原特異的CD4+T細胞はIL-27受容体を介して直接IL-27シグナルを受け取るのか、あるいはCD4+T細胞の応答には他の細胞やサイトカインが介在するのかを明らかにする。
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