研究課題
マラリア原虫抗原特異的T細胞受容体トランスジェニックマウスのCD4+T細胞(PbT-II細胞)をC57BL/6マウスに受身移入し、マラリア原虫Plasmodium chabaudi感染後、PbT-II細胞の記憶細胞への分化におけるIL-27の解析を行った。シングルセルレベルの網羅歴遺伝子発現解析:2022年度に、抗IL-27抗体で処理したマウスの感染28日後の免疫記憶PbT-II細胞のシングルセルRNA-seq解析を行っていた。今年度は、そのコントロール群としてコントロールIgGで処理したマウスの感染28日後のPbT-II細胞のシングルセルRNA-seq解析を追加し、IL-27を中和した場合にのみユニークなTh1型の免疫記憶細胞が分化することを明らかにした。免疫記憶細胞の分化と維持におけるマラリア原虫感染の役割に関する解析:P. chabaudiは慢性感染型のマラリア原虫である。そこで免疫記憶の持続に原虫感染の関係を明らかにするため、マラリア原虫感染後抗マラリア薬で処理して生きたマラリア原虫を完全に排除し、免疫記憶細胞への影響を調べた。原虫感染の早期(6日後から)に抗マラリア薬で処理すると、抗IL-27抗体投与群においてPbT-II細胞数は抗マラリア薬非処理群に比べて著名に少なくなったが、抗IL-27抗体非処理群より高いレベルは維持された。一方感染後3週間後、原虫血症が低下してから抗マラリア薬処理を行うと、免疫記憶細胞の数への影響は見られなかった。このことから、特異的T細胞が活性化する時期にはマラリア原虫の存在は重要であるが、一旦免疫記憶細胞が形成されると感染が継続していなくてもT細胞免疫記憶はある程度は維持されると考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題では、サイトカインIL-27の中和によりマラリア原虫感染マウスに誘導される記憶CD4+ T細胞について、フローサイトメトリーによる細胞表面分子および転写因子発現、トランスクリプトーム解析、細胞の機能解析、さらには記憶CD4+ T細胞の維持における持続感染の役割について解析することを計画した。これらの解析は予定通り順調に進み、結果をまとめてEMBO Molecular Medicineに論文を掲載するに至った。特にトランスクリプトーム解析に関しては、PbT-II細胞をソーティングで精製してシングルセルRNA-seqを行った。感染7日目の急性期では、抗IL-27抗体中和群と対照群間で大きな違いは見られなかった。一方感染28日目の慢性期では、中和群と対照群のクラスタリング解析で重なりが極めて少なく、T細胞活性化初期のIL-27の作用は、記憶CD4+T細胞の数と質に大きな影響を与えることが明らかになった。特にIL-27中和下では、2種類のユニークな遺伝子発現を示す記憶CD4+T細胞が分化することが明らかになった。記憶T細胞分化におけるサイトカインの新たな役割が明らかになり、ワクチン開発や慢性感染症の新規治療法の開発への発展が期待される。このように、当初計画した研究は既におおよそ成し遂げることができ、新たな展開を迎えており、当初計画以上に進展していると評価できる。
これまでの研究により、マラリア原虫感染初期、特異的CD4+T細胞が活性化される時期にIL-27を中和すると、その後分化する記憶T細胞の数が格段に増え、かつ2種類のユニークなTh1型の記憶T細胞に分化することが明らかになった。換言すれば、IL-27は免疫記憶CD4+T細胞の増殖やTh1分化を抑制する。しかしながら、この作用はIL-27が直接マラリア原虫特異的T細胞のIL-27受容体に結合してこのような機能を発揮するのか、あるいは他の細胞のIL-27受容体に結合し、結果として間接的に原虫特異的T細胞に影響するのか明らかではない。このことを解明するため、IL-27受容体遺伝子欠損マウスを導入する。T細胞受容体トランスジェニックPbT-IIマウスに交配し、IL-27受容体欠損PbT-II細胞を作成する。この細胞を野生型マウスあるいはIL-27受容体遺伝子欠損マウスに移入してマラリア原虫感染実験を行うことにより、特異的T細胞のIL-27受容体シグナルが重要なのか、あるいは他の細胞のIL-27受容体を介して間接的に免疫記憶細胞に影響するのかを明らかにする。
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