研究課題/領域番号 |
22H02872
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
小川 道永 国立感染症研究所, 細菌第一部, 室長 (80361624)
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研究分担者 |
谷田 以誠 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (30296868)
佐久間 智理 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 主任研究員 (80782888)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 肺炎球菌 / シアリダーゼ / ニューモリシン / NanoBit-Nanobody |
研究実績の概要 |
肺炎球菌はα溶血性のグラム陽性双球菌であり、ヒトの鼻咽頭に常在するが小児や高齢者では髄膜炎や敗血症など致死率の高い侵襲性感染症(IPD)を引き起こす。IPD発症においては、肺炎球菌が鼻咽頭上皮細胞をはじめとした宿主細胞へ定着し、その後のエンドサイトーシス経路をハイジャックし細胞内に侵入する。細胞内に侵入した肺炎球菌は、エンドソームに取り込まれた後にニューモリシンを放出することでエンドソーム膜に膜孔を形成する。ニューモリシン(Pneumolysin;Ply)はリステリアのリステリオリシンOやA群溶血性レンサ球菌のストレプトリジンOと同様にコレステロール依存的細胞溶解毒素に属する膜孔形成毒素であり、菌体が溶菌することによって菌体外へと放出されオリゴマーを形成することにより細胞膜上に膜孔を形成する。エンドソーム膜上に形成された膜孔は、エンドソーム膜の破綻とエンドソーム酸性化抑制を誘導し、最終的にエンドサイトーシス-リソソーム経路による殺菌が抑制される。このようにニューモリシンは肺炎球菌の細胞内生存性に必須の病原因子であるが、その一方で、ニューモリシンが誘導するエンドソーム膜損傷は選択的オートファジー誘導の引き金となることが知られている。 本研究ではNanioBiT-Nanobodyを用いたエンドソーム膜損傷測定系を構築し解析した結果、肺炎球菌が病原因子NanA(シアリダーゼ)を駆使して宿主細胞膜表面のシアル酸をトリミングすることで膜孔形成毒素であるニューモリシンの膜へのアクセスを抑制し、その結果、宿主エンドソーム膜の過剰な損傷とゼノファジー誘導、さらに細胞死が顕著に抑制されるという、菌の新たな感染戦略を見出した。さらに、オセルタミビル処理が肺炎球菌感染で惹起される細胞傷害性を増強し菌の排除を促進することも見出すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NanioBiT-Nanobodyを用いたエンドソーム膜損傷測定系を構築し解析した結果、肺炎球菌が病原因子NanA(シアリダーゼ)を駆使して宿主細胞膜表面のシアル酸をトリミングすることで膜孔形成毒素であるニューモリシンの膜へのアクセスを抑制し、その結果、宿主エンドソーム膜の過剰な損傷とゼノファジー誘導、さらに細胞死が顕著に抑制されるという、菌の新たな感染戦略を見出すことができた。さらに、肺炎球菌が誘導する階層性オートファジーの作動原理解明の基礎となるオートファジーマトリクス解析の基盤構築も順調に進んでいるため。
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今後の研究の推進方策 |
肺炎球菌が誘導する階層性オートファジーの作動原理解明の基礎となるオートファジーマトリクス解析の基盤構築を推進し、その駆動力となっている菌側、宿主側因子を同定する。そして、それぞれの分子の時空間的な相互作用と生物学的活性を明らかにし、階層性オートファジーの作動原理を解明するとともに、肺炎球菌が保有している未知の高度な宿主細胞内戦略を解明する予定である。
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