研究実績の概要 |
我々は、抗レトロウイルス因子であるシチジン脱アミノ化酵素APOBEC3ファミリー(A, B, C, D, F, GおよびHの7種)のうち、APOBEC3Aのみが、SARS-CoV-2 RNA中のC塩基をU塩基に変換する酵素活性(RNA編集)を有すること、そして、ウイルス遺伝子の変異を誘導することを見出し報告してきた(Nakata et al. NAR 2023)。これまでDNAを標的とする酵素と考えられてきたAPOBEC3Aによる、抗レトロウイルス作用と変異導入効果の分子機序、ならびに細胞内制御機序に関して、RNA編集という視点から精査することを目的で研究を進めている。本年度は、1)APOBEC3AによるHIV-1ゲノムの遺伝的多様性への影響と細胞内作用点、2)上皮系細胞におけるAPOBEC3Aの発現制御、について新たな知見を取得した。まず、HIV-1に対する抗ウイルス効果 (約2.5倍)は低く、酵素活性依存的であることが示された。しかし、遺伝的多様性はセンス依存的にUC>UU変異が優位に認められ、HIV-1の試験管内における継代と共に蓄積することが分かった。ウイルス感染標的細胞ではなく、ウイルス産生細胞に過剰発現した場合にのみその効果は認められたことから、APOBEC3Aによる効果はウイルス複製後期過程であり、ゲノムRNA発現からウイルス出芽・放出過程の間(粒子取込みが認められないため)であることを明らかにした。今後、APOBEC3Aにより、細胞指向性変化など、具体的なウイルス表現型が変化する傾向にあるのかを解析する必要がある。次に、発現制御については、上皮系細胞では、APOBEC3AがTNF-a/1型インターフェロンあるいはTNF-a/PMAのいずれかで誘導される2通りの細胞種が存在することを明らかにした。非腫瘍性乳腺細胞MCF10Aでは、上皮成長因子(EGF)がAPOBEC3Aの発現誘導(制御)に影響を与える主要な因子であることが判明した。
|