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2023 年度 実績報告書

転写因子BACH1と鉄による膵臓癌上皮間葉転換と幹細胞性の促進機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 22H02895
配分区分補助金
研究機関東北大学

研究代表者

松本 光代  東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80400448)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2026-03-31
キーワードBACH1 / 鉄 / EMT
研究実績の概要

前年度、我々は膵臓癌細胞におけるBACH1の減少が細胞内遊離鉄を減少させ上皮系細胞のマーカーであるE-カドヘリンの発現を亢進させることを報告し、その中で、BACH1の発現がキナーゼの1つであるTBK1によって上昇することを示した。癌の悪性化を促進するBACH1量の制御機構の解明は重要な課題であり、TBK1という手掛かりを得たことから、本年度は更なる機序の解明に努めた。その結果、肝臓癌細胞株であるHepa1細胞やBリンパ球様のNamalwa細胞といった細胞種において、TBK1がBACH1タンパク質をリン酸化依存的にも、また非依存的にもそれぞれ異なった機序において分解することが分かった。これは膵臓癌で見られた現象とは逆であり、TBK1によるBACH1の制御機構が複雑であることが判明し、これを報告した(Int. J. Mol. Sci. 2024, 25, 4141)。他方、以前の研究において我々はBACH1がフェロトーシス(鉄依存性細胞死)の誘導剤であるErastinの感受性を上げることを報告し、BACH1がフェロトーシス促進因子であることを示してきたが、今回、BACH1欠損マウス線維芽細胞にドキシサイクリン依存的にBACH1発現量を上昇させる系を構築することで、BACH1がフェロトーシス誘導因子であることを証明した(J Biochem. 2023,174:239-252)。このことは、BACH1を減少させた膵臓癌細胞の細胞内遊離鉄が減少するという事実と合わせて考えると、悪性因子であるBACH1が、フェロトーシス誘導剤を用いた治療においてはアキレス腱となり得る可能性を示唆した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

2023年度は代表者の所属の変更があり、エフォートや立ち上げなどの関係からEMTのほかに注目したいとしたBACH1と癌幹細胞との関係における研究が遅れている。しかし、期間後半には本研究へのエフォートも確保でき、2023年度はBACH1の癌細胞における制御機構についての理解を進めることができた。また昨年度に立てた研究推進方策通り、BACH1によるEMT促進にフェリチンを介した細胞内の鉄動態が関連していることを証明しつつある。一方で、以前、我々はマウス線維芽細胞を用いた脂肪細胞分化誘導実験や筋芽細胞を用いた筋細胞分化誘導実験においてBACH1が無いと分化が促進されることを示している。BACH1による幹細胞性維持の観点から他種細胞での細胞分化制御にBACH1が寄与するのか検証したところ、脂肪細胞時と同様に抑制することがわかってきた。本結果が今後、癌幹細胞に関わるBACH1の作用の有無を詳らかにする足掛かりになることを期待している。

今後の研究の推進方策

癌細胞でのBACH1による細胞内鉄量の変化と上皮間葉移行(EMT)への関与をさらに探るため、今年度はBACH1によって変動する他のEMT関連遺伝子が鉄のキレートやBACH1標的遺伝子の1つであるフェリチンの発現抑制によって変動するのか、網羅的に遺伝子発現状態を確認する。また、以前行ったBACH1標的遺伝子データとの統合解析によってBACH1-鉄軸を介した腫瘍悪性化機序について検討を行う。さらに、膵臓癌細胞へのフェリチン抑制による鉄の負荷やキレートによってその遊走能や浸潤能が変化するのか調べる。加えて、膵臓癌のマウスモデルを用いて、培養細胞同様にBACH1による癌細胞内の遊離鉄増強効果が見られるのかについて検討するための準備にとりかかる。一方で、BACH1-鉄軸が与える癌細胞への悪性化機構が膵臓癌に特異的な効果なのか調べる。そのために他の癌細胞株においても、BACH1が細胞内遊離鉄の増強を引き起こすのか検討する。また、BACH1減少時のEMT関連遺伝子の変動を確認する。他方、BACH1による癌幹細胞性への影響を探るため、幹細胞性関連遺伝子の発現をモニターするレポーターシステムの構築を試みる。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件) 備考 (3件)

  • [雑誌論文] TANK Binding Kinase 1 Promotes BACH1 Degradation through Both Phosphorylation-Dependent and -Independent Mechanisms without Relying on Heme and FBXO222024

    • 著者名/発表者名
      Liu Liang、Matsumoto Mitsuyo、Watanabe-Matsui Miki、Nakagawa Tadashi、Nagasawa Yuko、Pang Jingyao、Callens Bert K. K.、Muto Akihiko、Ochiai Kyoko、Takekawa Hirotaka、Alam Mahabub、Nishizawa Hironari、Shirouzu Mikako、Shima Hiroki、Nakayama Keiko、Igarashi Kazuhiko
    • 雑誌名

      International Journal of Molecular Sciences

      巻: 25 ページ: 4141~4141

    • DOI

      10.3390/ijms25084141

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Ferroptosis model system by the re-expression of BACH12023

    • 著者名/発表者名
      Irikura Riko、Nishizawa Hironari、Nakajima Kazuma、Yamanaka Mie、Chen Guan、Tanaka Kozo、Onodera Masafumi、Matsumoto Mitsuyo、Igarashi Kazuhiko
    • 雑誌名

      The Journal of Biochemistry

      巻: 174 ページ: 239~252

    • DOI

      10.1093/jb/mvad036

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Heme-dependent induction of mitophagy program during differentiation of murine erythroid cells2023

    • 著者名/発表者名
      Ikeda Masatoshi、Kato Hiroki、Shima Hiroki、Matsumoto Mitsuyo、Furukawa Eijiro、Yan Yan、Liao Ruiqi、Xu Jian、Muto Akihiko、Fujiwara Tohru、Harigae Hideo、Bresnick Emery H.、Igarashi Kazuhiko
    • 雑誌名

      Experimental Hematology

      巻: 118 ページ: 21~30

    • DOI

      10.1016/j.exphem.2022.11.007

    • 査読あり
  • [学会発表] BACH1を標的とした高効率触媒的RNA切断機能付与型人工核酸 (CANA) による膵臓癌治療薬開発 IV -ジャンクション部位の複合体安定性・切断効率への影響-2024

    • 著者名/発表者名
      五十嵐 優希、堀内 結翔、松本 光代、三瓶 悠、西嶋 政樹、荒木 保幸、山吉 麻子、五十嵐 和彦、和田 健彦
    • 学会等名
      日本化学会 第104春季年会
  • [学会発表] 癌細胞選択的薬物導入システムの構築と機能評価III: 膵臓癌悪性化抑制薬剤導入を目指して2024

    • 著者名/発表者名
      加藤 ひらり、東 亮太、荒木 保幸、西嶋 政樹、松本 光代、中瀬 生彦、大村 美香、山吉 麻子、五十嵐 和彦、和田健彦
    • 学会等名
      日本化学会 第104春季年会
  • [備考] 【プレスリリース】 遺伝子一つを再発現しただけで細胞死が起きた!

    • URL

      https://www.med.tohoku.ac.jp/5389/

  • [備考] 東北大学多元物質科学研究所・生命機能制御物質化学研究分野

    • URL

      https://db.tagen.tohoku.ac.jp/php/forweb/outline.php?lang=ja&no=1035

  • [備考] 東北大学大学院医学系研究科・生物化学分野

    • URL

      https://www.biochem.med.tohoku.ac.jp/

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公開日: 2024-12-25  

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