研究実績の概要 |
前年度、我々は膵臓癌細胞におけるBACH1の減少が細胞内遊離鉄を減少させ上皮系細胞のマーカーであるE-カドヘリンの発現を亢進させることを報告し、その中で、BACH1の発現がキナーゼの1つであるTBK1によって上昇することを示した。癌の悪性化を促進するBACH1量の制御機構の解明は重要な課題であり、TBK1という手掛かりを得たことから、本年度は更なる機序の解明に努めた。その結果、肝臓癌細胞株であるHepa1細胞やBリンパ球様のNamalwa細胞といった細胞種において、TBK1がBACH1タンパク質をリン酸化依存的にも、また非依存的にもそれぞれ異なった機序において分解することが分かった。これは膵臓癌で見られた現象とは逆であり、TBK1によるBACH1の制御機構が複雑であることが判明し、これを報告した(Int. J. Mol. Sci. 2024, 25, 4141)。他方、以前の研究において我々はBACH1がフェロトーシス(鉄依存性細胞死)の誘導剤であるErastinの感受性を上げることを報告し、BACH1がフェロトーシス促進因子であることを示してきたが、今回、BACH1欠損マウス線維芽細胞にドキシサイクリン依存的にBACH1発現量を上昇させる系を構築することで、BACH1がフェロトーシス誘導因子であることを証明した(J Biochem. 2023,174:239-252)。このことは、BACH1を減少させた膵臓癌細胞の細胞内遊離鉄が減少するという事実と合わせて考えると、悪性因子であるBACH1が、フェロトーシス誘導剤を用いた治療においてはアキレス腱となり得る可能性を示唆した。
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