研究課題/領域番号 |
22H02906
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
藤田 直也 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター, 所長 (20280951)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | がん / ポドプラニン / 転移 / 血小板 |
研究実績の概要 |
血小板は、生理的には止血に関与することで生体防御・維持に重要な働きをしている。その一方で、血小板はがん細胞との相互作用により凝集してがん細胞表面を覆うことで、血管内における免疫細胞からの保護や血流などによるシェアストレスからのがん細胞の保護にも働くことで、がん細胞の血行性転移といったがんの悪性化の促進にも関わっている。また、血小板に内包されている様々な増殖因子は止血後の創傷治癒にも役立っているが、これら増殖因子はがん細胞の増殖をも促進していることが明らかとなっており、血小板は生理的に重要な因子であるのと裏腹に疾病の悪化にも関わっており、そうした二面性の作用機構の解明が喫緊の課題となっている。 研究代表者が同定したポドプラニン分子は、血小板上のCLEC-2分子との相互作用により血小板凝集を惹起している。そのため、その相互作用を阻害する中和抗体は、ポドプラニン陽性癌細胞による血小板凝集を抑制するが、予想外に本中和抗体投与でも腫瘍増殖が抑制されないポドプラニン陽性の骨肉腫細胞が存在することを見出した。そこで本中和抗体投与により抑制される骨肉腫細胞と抑制されない骨肉腫細胞を比較検討したところ、血小板の凝集時に放出されるPDGFやEGFファミリーといった増殖因子のレセプター分子の発現レベルが高いと本中和抗体の抗腫瘍効果が高く認められ、一方でその発現が低い場合には本中和抗体の抗腫瘍効果が弱いことが明らかとなった。一方で、本中和抗体はポドプラニン陽性細胞に対しては等しく血行性の肺転移を抑制した。確かに、本中和抗体添加で増殖が抑制される骨肉腫細胞はPDGFあるいはEGF様の増殖因子に依存して腫瘍増殖が促進されることが明らかとなり、ポドプラニンに対する中和抗体の抗腫瘍効果はPDGF・EGFのレセプター発現と相関している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は血小板凝集に伴う骨肉腫細胞の増殖に関わるシグナル伝達機構を同定するのは困難を極める可能性があると思われたが、ポドプラニンに対する中和抗体で抗腫瘍効果が認められる骨肉腫細胞と認められない骨肉腫細胞を比較解析することで、PDGFレセプターやEGFレセプターの関与を見出すことができた。さらに、それらレセプターの活性阻害剤を添加することにより、凝集した血小板から放出される増殖因子による細胞増殖が抑制できることも立証できたため。
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今後の研究の推進方策 |
骨肉腫に対する抗ポドプラニン中和抗体の抗腫瘍効果は、PDGFレセプターやEGFレセプターの発現強度と相関している可能性を見出している。そこで、昨年度までにPDGFレセプターやEGFレセプターの関与を証明するために用いてきたレセプターの活性阻害剤のオフターゲット効果ではないことをまずは証明する。具体的には、阻害プロファイルの異なる他のPDGFレセプター阻害剤やEGFレセプター阻害剤で同等な効果が認められることを立証するとともに、PDGFレセプターやEGFレセプターのノックダウンによる抑制効果を確認する。さらに、骨肉腫の臨床検体を用い、ポドプラニン発現頻度とPDGFレセプターまたはEGFレセプターの発現頻度と臨床的な予後との相関を免疫組織染色により確認する。 これまでに、抗ポドプラニン中和抗体が認識するヒトポドプラニンの結合部位を同定し、その結合部位をマウスポドプラニンの相同部位と置換したノックインマウスの樹立に成功している。そこで、このノックインマウスを用いて、抗ポドプラニン中和抗体の投与時における腫瘍組織内の抗腫瘍免疫に関わる免疫細胞のプロファイル変化を検討し、抗ポドプラニン中和抗体投与時の抗腫瘍効果における免疫細胞の寄与を検討する。
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