研究課題/領域番号 |
22H02908
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
荒川 博文 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (70313088)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 液-液相分離 / 液滴 / membrane-less organelles / ミトコンドリア / p53 / がん抑制 / カルジオリピン / 代謝反応 |
研究実績の概要 |
p53誘導性タンパク質Mieapはミトコンドリアに液滴を形成する。液滴は液-液相分離によって誘導され、細胞内の様々な生体反応を区画化・促進する非膜オルガネラとして機能する。我々はMieap液滴が非膜オルガネラとしてカルジオリピン代謝を制御することでミトコンドリアの健常性を維持している可能性があることを見出した。本研究課題は、(1)Mieap液滴はどのようにカルジオリピン代謝を制御しているのか、(2)カルジオリピン代謝の促進が何故がんを抑制するのか、(3)がんはカルジオリピン代謝を抑制しているのか、(4)Mieap液滴の制御はがんの治療法となり得るか、の疑問を明らかにし、その成果を応用することでカルジオリピン代謝を標的とした全く新しいがんの予防法・治療法の開発に繋げることを目的に行われる。これまでの成果として、生体内でのMieap液滴の可視化のために蛍光タンパク質融合Mieapを発現するノックインマウスを作成し、大腸がんモデルマウスとの交配により、蛍光タンパク質融合Mieap発現ノックイン大腸がんモデルマウスを樹立した。さらに生理的なMieap液滴の細胞レベルでの解析のために、蛍光タンパク質融合Mieap発現ノックインマウスを用いて、蛍光タンパク質融合Mieapを発現するマウス胎児線維芽細胞株を樹立した。これらの個体や細胞株を用いることで、生理的Mieap液滴の実態解明が可能になると期待される。またヒト大腸がん組織や大腸がんモデルマウスの腫瘍組織では、カルジオリピン代謝が抑制されている可能性が示唆された。今後は、(1)個体の大腸がん発生・進展の過程でMieap液滴が生体内でどのように誘導され挙動するのか、(2)カルジオリピン代謝促進が腫瘍抑制的に機能するのか、の2点を明らかにすることが重要であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)Mieap液滴の実態解明:生体内のMieap液滴を可視化するために、蛍光タンパク質mNeonGreenをMieap遺伝子座へノックインし、N末mNeonGreen融合MieapとC末mNeonGreen融合Mieapを発現する2種のmNeonGreen融合Mieap発現ノックインマウスを作成した。現在、大腸がんモデルマウスであるApcMin/+マウスとこれら2種のmNeonGreen融合Mieap 発現ノックインマウスを交配し、mNeonGreen融合Mieap発現ノックインApcMin/+マウスを作製している。また細胞内での生理的Mieap液滴の可視化のために、これら2種のmNeonGreen融合Mieap発現ノックインマウスを用いて、マウス胎児線維芽細胞を樹立し、細胞レベルでの解析を進めている。 (2)がん細胞・組織におけるカルジオリピン代謝の異常の解析:電子顕微鏡解析でクリステ構造の異常を確認している大腸がん症例の腫瘍組織と正常組織について、カルジオリピン代謝解析を行っている。また大腸がんモデルマウスであるApcMin/+マウスの腫瘍組織についてのカルジオリピン代謝解析を行っている。 (3)腫瘍形成に対するカルジオリピン代謝の影響についての解析:Mieap欠損がん(HCT116)へのカルジオリピン代謝促進(p53/Mieapあるいはカルジオリピン代謝酵素の遺伝子導入)が腫瘍形成に及ぼす影響をヌードマウス皮下移植実験によって検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、(1)腫瘍の発生・進展過程で、生理的なMieap液滴がどのように誘導され挙動するのかを、Mieap液滴を生体内で可視化することによって明らかにすること、(2)大腸がん・胃がん・乳がん患者の腫瘍組織において、カルジオリピン代謝がどの程度抑制されているかを明らかにすること、(3)腫瘍におけるカルジオリピン代謝を促進することががんの増殖抑制や細胞死を誘導し、腫瘍抑制効果となり得るかを明らかにすること、の3点が重要と考えている。
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