研究課題
異なる2種の抗体の抗原結合ドメインを繋げると、2分子間を架橋可能な二重特異性抗体が作製される。これまでの二重特異性抗体の網羅的な改変体の開発を通して、超高活性のLH型と低活性のHL型が存在することを見出している。本研究は、まずLH型とHL型を含む種々の活性の異なる二重特異性抗体を用いた両標的抗原との三者複合体のクライオ電顕構造解析により、強力ながん細胞傷害活性をもたらし得る両標的抗原の空間配置を解明し、さらに、得られた空間配置を基に高活性の二重特異性抗体の効率的な創製プラットフォームの開発を目指している。本年度は、クライオ電顕構造解析による二重特異性抗体と両標的抗原の至適な空間配置の解明、を主に目指した。これまで、LH型とHL型二重特異性抗体と一方の標的抗原との二者複合体のクライオ電顕単粒子解析は、グリッドを作製する際に試料を包埋する氷が厚くなり、分解能が上がらないことが問題であった。そこで、界面活性剤のスクリーニングなどのバッファー種に加え、ブロッティング強度とタンパク質濃度のスクリーニングを行い、二重特異性抗体に適したグリッド調製の条件検討を進めた。また、もう一方の標的抗原の組換え体の調製を行った結果、高純度のサンプルが得られたため、二重特異性抗体と両標的抗原の3者複合体を調製した。続いて、この3者複合体を用いて、ネガティブ染色電顕での観察、およびクライオ電顕のデータセットの収集を行った。構造解析の結果、低解像度ながらLH型、HL型いずれも3次元構造を計算することはできたが、原子レベルの構造決定には至らなかった。今後、さらに条件検討を行うと共に、二重特異性抗体を構成する各々の抗体の抗原結合部位と対応する標的抗原との複合体の解析も並行して進め、クライオ電顕単粒子解析により得られた像の構造決定の一助とする予定である。
2: おおむね順調に進展している
二重特異性抗体と両標的抗原の組換え体の調製に関して、研究協力者である学生の派遣等を通して、順調に進めることができた。結果、高純度の二重特異性抗体と両標的抗原の3者複合体の調製に成功し、ネガティブ染色電顕での観察、およびクライオ電顕のデータセットの収集へと進めることができた。一方で、原子レベルの構造決定にはさらなる条件検討が必要であった。以上、研究の進捗を総合的に判断し、おおむね順調に進展している、とした。
原子レベルの構造決定に向けて、さらに条件検討を行うと共に、二重特異性抗体を構成する各々の抗体の抗原結合部位と対応する標的抗原との複合体の解析も並行して進め、クライオ電顕単粒子解析により得られた像の構造決定の一助とする。また、構造多型分類プログラムを駆使し、ドメインの構造変化も加味した構造情報を取得し、強力ながん細胞傷害活性をもたらす空間配置の決定を目指す。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 2件、 招待講演 7件)
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