研究課題
DOT1L阻害剤による抗腫瘍メカニズムを明らかにするため、網羅的トランスクリプトーム解析を行った。EZP-5676あるいはSGC0946で乳がん細胞・骨髄腫細胞を処理し、RNA-seq解析を行った。その結果、E2Fターゲット、G2/Mチェックポイント、DNA修復、MYCターゲット、酸化的リン酸化など、細胞周期、細胞増殖に関わる遺伝群の発現が顕著に抑制されることが明らかとなった。一方、インターフェロンシグナル、免疫応答、アポトーシス、Vitamin Dシグナルに関連する遺伝子群の発現が強く誘導されることが明らかとなった。またER陽性乳がんでは、エストロゲンシグナル関連遺伝子の抑制が認められた。DOT1L阻害がIFIT1を始め、多数のインターフェロン応答遺伝子発現を誘導することを定量RT-PCRによって確認した。またDOT1L阻害が、細胞表面のMHC class Iおよびclass II分子の発現を誘導することを見出した。DOT1L阻害がエピゲノムに及ぼす影響をさらに解析するため、ヒストンH3リジン4トリメチル化(H3K4me3)、ヒストンH3K27アセチル化(H3K27ac)を解析した。その結果、DOT1L阻害により数千カ所のH3K4me3ピークが増加することを見出した。それらのピークはSINE、LINE、LTRなどの反復配列に多いことが明らかとなった。さらにmotif解析の結果、DOT1L阻害によって増加するH3K4me3・H3K27acピークには、インターフェロン応答配列が有意にエンリッチしていることを明らかにした。また我々は、RIGI、STINIGなどの細胞内核酸センサー分子のノックダウンが、インターフェロン応答遺伝子発現を顕著に抑制することを明らかした。これらの結果は、DOT1L阻害が核酸センサー経路を介して、がん細胞のインターフェロン応答を誘導すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
DOT1L阻害処理によるトランスクリプトーム・エピゲノムデータの収集を行う事ができた。これらのデータ解析から、DOT1L阻害がインターフェロンシグナル、細胞周期、細胞増殖、エストロゲンシグナル、Vitamin Dシグナルなど、様々な細胞内シグナル経路に影響を及ぼすことを明らかにすることができた。またDOT1L阻害により誘導されるエピゲノム変化は、インターフェロン応答配列に多いことが明らかにされた。さらにDOT1L阻害によるインターフェロン応答に、細胞内核酸センサー経路が関与することを示す基礎的なデータを得ることが出来た。
さらに複数の細胞株を用いて、DOT1L阻害がトランスクリプトーム・エピゲノムに与える変化のデータを蓄積する。それらのデータ解析を通して、DOT1L阻害の抗腫瘍メカニズムの解析を継続する。ゲノム編集技術を用いて、核酸センサー分子のノックアウト細胞を作成する。作成したノックアウト細胞に対し、DOT1L阻害処理を行い、抗腫瘍効果、トランスクリプトーム解析、エピゲノム解析を行う。
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