研究課題
膵がんのように早期診断技術開発が待望される腫瘍において、血中マイクロRNA (miRNA)診断の実用化が期待されている。多くの臨床検体の解析から、そのコンセプトの正しさは実証されているが、血中miRNAによってなぜ膵がんが診断できるのか、正確には証明しきれていない。特に膵がん発がん過程において、KRASを筆頭としたドライバー遺伝子変異の蓄積のどの段階で血中miRNAプロファイルが変化するのかは不明である。加えて、膵腫瘍の発生によって周辺の細胞や免疫細胞などが反応し、分泌するmiRNAが変化することも、血中miRNAに大きく影響している可能性がある。本研究はこれらの点を考慮し、マウスで膵発がん過程での血中miRNA変化を追跡し、その意味を理解することを目的とする。まずマウス膵管初代培養より樹立した膵前駆細胞に対し、CRISPR/Cas9を用いて遺伝子編集を行い、KRAS、CDKN2A、TP53、SMAD4の変異を導入した膵多段階発がん細胞株系列を作成した。各細胞の培養上清より細胞外小胞を収集し、miRNA-seqによってmiRNAプロファイルを網羅的に解析した。これにより、各ドライバー遺伝子変異に固有のmiRNA分泌パターンの変化を見出した。さらに当該細胞株にそれぞれLuciferaseを導入した後、免疫不全マウス(ヌードマウス)の膵臓内に移植し、各遺伝子変異が細胞増殖や生命予後に与える影響をin vivoで明確にした。
2: おおむね順調に進展している
我々が独自に樹立したマウス膵前駆細胞は細胞増殖力が極めて高く、プラスミドトランスフェクション法によるCas9-sgRNAの導入によって極めて簡便にゲノム編集が可能であり、またsingle cell cloningも容易であったことから、膵上皮の実験モデルとして有用であることが明らかになった。レンチウイルスベクターによるLuciferase導入も速やかに実施可能であり、in vivo imaging system (IVIS)による、マウス移植細胞の観察も問題なく実施可能であった。また樹立細胞由来の細胞外小胞に含まれるmiRNA解析も完了しており、研究は順調に進行している。
マウスにKRAS(G12D)変異を導入した際に、ほとんどの細胞が自然にCDKN2A欠損を獲得したことが判明したため、KRAS(G12D)単独変異細胞から分泌される細胞外miRNAの解析を実施できていないことがわかった。またTP53欠損株は樹立されたが、TP53(R172H)変異株はまだ樹立できておらず、継続して細胞系譜の樹立をすすめる。さらに樹立細胞株にLuciferase導入後、免疫不全マウスへの生着は確認できたが、野生型マウスには生着しづらいことが判明した。今年度はまず、Luciferaseを導入せずに、野生型マウスへ生着するKRAS変異細胞の取得をめざす。また免疫不全マウスへ細胞移植した後に血漿より細胞外小胞を回収し、miRNAを分析することで、各ドライバー遺伝子変異に対応した血中miRNA変化を同定する。このモデルでは獲得免疫細胞由来のmiRNA変化の同定はできないが、今後、野生型マウスで同様の解析を行うことにより、その差分をみることで獲得免疫細胞由来miRNAの同定も可能になると考えられる。
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