研究課題
本研究の目的は、腫瘍抗原の違いによるT細胞の運命決定と術後の再発予防効果との関連を明らかにし、将来の肺癌の術後補助がんワクチン療法に向けた基盤データを構築することである。肺癌の抗原特異的T細胞の性質を明らかにするために、まず、肺癌検体から変異由来の抗原を含む腫瘍抗原を予測し、それに特異的に反応する腫瘍浸潤T細胞を同定する必要がある。腫瘍抗原は腫瘍組織の全エクソームシーケンスとRNA-seqのデータから人工知能(AI)を活用して予測する。抗原特異的T細胞は腫瘍浸潤リンパ球のシングルセル解析から、それぞれのクロノタイプの表現型とクローナリティーから予測し、最終的にはin vitroの実験により、抗原特異的T細胞と抗原を同定する。本年度は、肺癌3例の腫瘍浸潤リンパ球からCD8T細胞をソートし、シングルセル解析を実施した。Cell Rangerによって作成されたデータをSeurat (R package)で解析した。クラスタリングのための次元削減は、Uniform Manifold Approximation and Projectionを用いて行った。遺伝子発現プロファイルによってCD8T細胞は、10のクラスターに分類された。ENTPD1(CD39)、TOX、PDCD1(PD1)、HAVCR2(TIM3)などの遺伝子発現とTCRのオリゴクローナリティを特徴とするTexクラスターが同定された。また、腫瘍の全エクソームシーケンスとRNA-seqのデータから、変異由来の抗原エピトープの予測を行った。
4: 遅れている
当初の想定よりも肺癌症例の集まりが悪く、腫瘍浸潤リンパ球のシングルセル解析を行うのに適切な症例の選択に時間を要した。本研究では、抗原特異的なT細胞の性質を詳しく調べるために肺癌検体のシングルセル解析は必須であるが、シングルセル解析に必要な、腫瘍浸潤リンパ球の豊富な検体を準備するのに時間がかかった。
適切な症例を選択してシングルセル解析を実施することで、腫瘍内に存在するT細胞の表現型やクローナリティーを明らかにし、抗原特異性の確認を行う。シングルセル解析の結果を受けて、主に疲弊型T細胞(exhausted T(Tex))クラスターに注目し、発現頻度上位数十位までのTCRを検証する。TCR遺伝子を人工遺伝子合成し、transcriptionally active PCR (TAP) fragmentsを利用した方法でJurkat細胞に発現させる。ルシフェラーゼレポーターベクターとTAP fragmentを電気穿孔法で導入したJurkat細胞と患者由来の抗原提示細胞と腫瘍抗原ペプチドを共培養し、ルシフェラーゼアッセイによりTCRの反応性を検証する。その結果から抗原特異的T細胞を同定し、その特徴をGene Set Enrichment Analysis(GSEA)やsingle sample GSEAで検討する。
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