研究分担者 |
黒田 浩章 愛知県がんセンター(研究所), 腫瘍免疫制御TR分野, 研究員 (20365274)
籠谷 勇紀 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (70706960)
真砂 勝泰 愛知県がんセンター(研究所), がん病態生理学分野, 研究員 (80338160)
山口 類 愛知県がんセンター(研究所), システム解析学分野, 分野長 (90380675)
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研究実績の概要 |
手術で切除された肺癌検体中のCD8+TILについて,single cell RNA解析とTCR解析を行った。同時に、肺癌検体から全エクソン解析及びRNA解析(バルク)を行い,そのデータを用いてネオ抗原およびがん精巣抗原であるKK-LC-1由来抗原エピトープを予測した。TCR遺伝子を人工合成し,transcriptionally active PCR (TAP) fragmentsを利用してJurkat細胞に発現させた。ルシフェラーゼレポーターアッセイによりTCRと抗原エピトープとの反応性を検証した。 CD8+T細胞は、遺伝子発現プロファイルによって10のクラスターに分類された。ENTPD1(CD39),TOX,PDCD1(PD1)などの遺伝子発現を特徴とする疲弊クラスター(Texクラスター)が同定された。肺がん3例のTexクラスターには,5種のKK-LC-1由来抗原と4種のネオ抗原を認識する計9種の異なるTCRクロノタイプが含まれていた。腫瘍抗原特異的T細胞(n=140)を再クラスタリングすると,同じTexクラスター内でもGZMAとPRF1の発現を特徴とする‘effector-like’T細胞とCCR7 と IL-7Rの発現を特徴とする‘progenitor-like’T細胞に分けられ,またT細胞クロノタイプごとに分化段階や機能状態が異なることが明らかになった。また、GSEAおよびssGSEAの結果からは、T細胞のシグナル伝達,活性化,増殖,サイトカイン産生に関連する遺伝子セットが,ネオ抗原に反応するT細胞群でenrichしていた。TCRシグナル強度はKK-LC-1由来抗原よりもネオ抗原に反応するTCRの方が高いことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
肺癌3例から、5種のKK-LC-1抗原と4種のネオ抗原を認識する計9種の異なるTCRクロノタイプを同定し論文発表した(Komuro et al, J Immunother Cancer 2023)。GSEAおよびssGSEAの結果からは、T細胞のシグナル伝達,活性化,増殖,サイトカイン産生に関連する遺伝子セットが,がん精巣抗原に比べて、ネオ抗原に反応するT細胞群で強くなっていることを示した。また、TCRシグナル強度もKK-LC-1由来抗原よりもネオ抗原に反応するTCRの方が高いことが示された。腫瘍抗原の違いによるT細胞活性化と術後再発予防効果との関連を明らかにし、将来の肺癌の術後補助がんワクチン治療戦略に向けた基礎データを得ることができた。 現在、さらに肺癌症例を増やして検証している。一方で、肺癌の初発、再発のペア検体が得られにくく、肺癌の再発検体の収集が遅れていることから、初発と再発検体の比較検討ができていない。
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