研究課題
田井中は有機溶媒を用いたヒト脳組織透明化技術を改良し、光シート照明型顕微鏡による3Dイメージング後のサンプルに対して、非常に簡便な溶液処理によりパラフィン包埋へとシームレスに接続できる化学処理法を確立した。また、この化学処理法では、検体の形状がほぼ保たれるため、3Dイメージングで観察される座標を保ったままパラフィン切片を取得することができる。これにより、組織透明化・3Dイメージングによって、広範囲に組織検体の構造物を観察した後に、従来の二次元神経病理解析手法に接続し、より詳細なpost hoc免疫組織化学的解析が可能となった。また、田井中・伊庭は樹脂を活用して透明化後の検体に対してトモグラフィ装置で研磨可能な包埋法を確立した。樹脂の浸透効率は目視で判別しにくい、という課題に直面したが、組織透明化後の検体は、樹脂の浸透と共に光散乱が増強するため、おおよその反応効率を目視で確認できる。これにより、再現性の高い包埋法を確立することができ、その結果、光シート顕微鏡とトモグラフィ装置の両者により1 cm3のヒト脳ブロックの細胞核を網羅的に検出することに成功した。また、核染色において、古い剖検検体ほど非特異的な染色像が確認されたことから、細胞核の網羅的な検出を再現良く実行するためには、新鮮なヒト剖検検体を使用することが重要であることが判明した。更に、伊庭・竹田は、ヒト脳イメージングによって得られる大規模画像データの管理・解析に特化した計算機システムを構築した。運用にかかる人的コストを抑えるために、NAS(Network attached storage)をデータサーバーとして用いて、解析用コンピュータを10GbEネットワークで接続した。さらに、NAS間を高速通信が可能なInfinibandで接続することでデータボリュームを拡張した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた通り、既に光シート顕微鏡による3Dイメージングが可能な組織透明化技術をトモグラフィイメージングに接続する化学処理法を開発することに成功した。これにより、1 cm3のヒト脳ブロックに対して、網羅的な細胞核の検出が可能になった。また、細胞核の網羅的イメージングにおいて、再現性が大きな障壁となることが判明したが、検体の鮮度が大きく寄与していることを見出した。このため、おおむね順調に進展していると判断した。
今後はトモグラフィイメージングによりヒト脳1スライスの細胞核を網羅的に検出できることを実証する。更には、核染色以外の免疫組織化学染色を行ったヒト脳検体について、トモグラフィイメージングにより観察できることを実証する予定である。
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