研究課題/領域番号 |
22H02938
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
水田 恒太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 客員研究員 (60632891)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 記憶の固定化 / 記憶 / 場所細胞 / 二光子イメージング / バーチャルリアリティ |
研究実績の概要 |
記憶は海馬で長期保持された後、必要な記憶は、時間と共に複数の皮質領域へ移行され、海馬非依存での皮質領域間の並列処理で保持・想起できるようになる。これをシステムレベルでの記憶の固定化(Systems Consolidation)という。Systems consolidationに関する記憶の保持や想起について、皮質領域間の関連性や並列処理についての具体的な機序はほとんどわかっていない。本研究は、海馬で長期保持された記憶の移行先であり互いに接続する大脳皮質の二つの脳領域、前帯状皮質(ACC)と脳梁膨大後部皮質(RSC)において空間記憶の形成過程を長期間観察し、記憶の保持や想起中の神経細胞群の活動パタンからSystems consolidationの法則を読み解いていく。 本年度は、マウスのRSCに逆行性のアデノ随伴ウイルス(rAAV-GCaMP6f)を導入し、RSCに投射するACCの神経細胞にGCaMP6fを発現させ、仮想現実空間を探索するマウスからACCの神経細胞の活動を二光子顕微鏡により調べた。ある特定の場所に報酬地点を設置した仮想直線路を用いた。特定の場所で活動する場所細胞を同定した。同定されたRSCに投射するACCの場所細胞の多くは報酬地点の周りに集中していた。次に、rAAV-GCaMP6fを背側線条体に導入し、背側線条体に投射するACC神経細胞の活動を調べたところ、場所細胞は仮想直線路全体に分布していた。 報酬地点をシフトさせた再学習課題では、学習始めは以前の報酬地点で活動していたが、学習に従い、以前の報酬地点と新規の報酬地点の両方で活動した。学習後期では以前の報酬地点での活動は減少した。 したがって、ACCの神経細胞は投射先で異なる情報を処理し、ACC-RSCの神経回路では報酬場所に関連した選択的に符号化している可能性があることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、仮想現実環境を学習するマウスの脳梁膨大後部皮質(RSC)と背側線条体からそれぞれ投射しているACCの神経細胞の活動を2光子顕微鏡により観察し、ACC-RSCの経路が報酬場所情報を特異的に符号化している可能性が高いことを明らかにした。これは、ACC-RSCの二領域間の並列処理に関わる神経活動の可能性が高いことから、概ね進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ACCから脳梁膨大後部皮質(RSC)へ投射する神経細胞群では、報酬に場所細胞が集中するマウスと場所細胞が全体に分布するマウスの二群に分かれた。脳梁膨大後部皮質 (retrosplenial dysgranular cortex: RSC)には非顆粒性領域(RSCd)と顆粒性領域(RSCg)の二領域が存在する。これらの投射と場所細胞の分布にどのように影響があるか詳しく調べる。また、ACC-RSCの投射神経細胞の中で報酬場所に集中していた細胞が報酬に反応した細胞かどうかを知るために、別の仮想現実空間を用い報酬付近の場所細胞がまだ活動するか、また、報酬に関連した場所に反応する細胞かどうかを知るために、学習した報酬場所から報酬を抜いた場合にそれらの活動はまだ残るかどうかを調べる。 さらに、皮質領域間の関連性や並列処理を詳しく知るために、ACC-RSCの逆経路であるACC へ投射するRSC神経細胞の活動を調べ、同じように報酬場所で場所細胞が集中しているかどうかを調べる。
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