研究課題
2022年度の研究実績としては、まずCD98に対する次世代型糖鎖抗体を共同研究によって樹立できたことである(Sci Transl. Med.)。CD98の糖鎖異性体は、CART治療などの新しい標的になる可能性がある。これまで研究を続けてきた糖鎖バイオマーカーの1つであるMac-2 binding protein(Mac-2bp)が、500例のNAFLD追跡患者のNAFLD関連死および関連イベントに深く関与することを見出した(Hepatology Communications)。また不思議なことに、Mac-2bp高値症例からのみ6例大腸がんが発症した。そして糖タンパク質のフコシル化ではなく、糖脂質のフコシル化(ルイス型糖鎖)がTRAIL感受性と深く関与することを細胞株およびCTOSを用いて検証した(Oncogene)。GMDSノックアウト細胞にL-fucoseを添加すると細胞のフコシル化は回復されるが、これはタンパク質のフコシル化だけで、脂質のフコシル化は回復しない。この事実が、長年の謎であったので、それが解明できた意義は大きい。一連の研究成果は、日経新聞のオンラインにも取り上げられた。以上の3つの成果が2022年度の研究実績と言えるが、それら以外にも長年研究を続けてきた糖鎖バイオマーカーのフコシル化ハプトグロビン(Fuc-Hp)が、DAA治療後高度肝線維化疾患患者の将来的な肝臓癌発症の予測マーカーとして重要(多変量解析で残る)であることを見出した。またFuc-Hpの制御機構に関して、数理統計解析的手法を用いた検討から、GDP-fucose Transporter (GDP-Fuc Tr)が最も重要であることを見出した。この論文は2022年度の大阪大学保健学科優秀論文に選ばれた。
2: おおむね順調に進展している
この数年力を入れてきた次世代型糖鎖抗体がいくつか樹立でき、そのバイオマーカーおよび治療標的同定への応用が進んだ。プレシジョンメデイシンを目指したTRAILの研究に関しては、これまでの糖鎖研究で最も深い研究内容と言えるが、TRAIL治療そのものがトレンドでなかったため、超一流誌に掲載することができなかった。ただオルガノイド研究のスタートにもなり、臨床情報と比較して検討できたことは有意義に感じる。Mac-2bpやFuc-Hpは、がん細胞そのものが産生する糖鎖バイオマーカーというよりも、がん微小環境で産生されるものであり、将来の疾患予測に有用であるという結果には非常に納得できる。
糖鎖バイオマーカーの研究を続ける中で、長期的な疾患予測に重要であることが科学的に証明できた。これらの基盤データをもとに、臨床応用を目指した大型研究費の獲得を目指したい。次世代型糖鎖抗体の作成に関しては、色んなノウハウが勉強できた。この技術を生かして新しい抗体樹立を目指したい。そして糖鎖バイオマーカーの産生機序を知るだけでなく、その生物学的機能の解析にも踏み込みたい。また数理モデル(AIを含めて)を使った解析を行うと、従来の労力の20-30%程度の論文が書けることも勉強になった。今後、この技術を積極的に捉えて行きたい。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (26件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)
Antioxidants & Redox Signaling
巻: 38 ページ: 1201~1211
10.1089/ars.2022.0010
Microbiology and Immunology
巻: 66 ページ: 179~192
10.1111/1348-0421.12964
Science Translational Medicine
巻: 14 ページ: eaax7706
10.1126/scitranslmed.aax7706
Hepatology Communications
巻: 6 ページ: 1527~1536
10.1002/hep4.1934
International Journal of Molecular Sciences
巻: 23 ページ: 6973~6973
10.3390/ijms23136973
Oncogene
巻: 41 ページ: 4385~4396
10.1038/s41388-022-02434-3
Frontiers in Medicine
巻: 9 ページ: 982128
10.3389/fmed.2022.982128
Biochemistry and Biophysics Reports
巻: 32 ページ: 101372~101372
10.1016/j.bbrep.2022.101372
PLOS ONE
巻: 17 ページ: e0279416
10.1371/journal.pone.0279416
Nutrients
巻: 15 ページ: 66~66
10.3390/nu15010066