研究課題
本研究課題は,脳内恒常性を保つために重要な役割を担うミクログリアの本質的な機能破綻を原因とする「一次性ミクログリア病」を対象とした研究である。ALSP (adult-onset leukoencephalopathy with spheroids and pigmented glia) / HDLS (hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid) は代表的な一次性ミクログリア病であり,ミクログリアの分化および機能維持を調節する鍵分子であるCSF1受容体 (CSF1R) の遺伝子変異を原因とする。CSF1R変異がヘテロ接合体で生じると、成人発症のALSP/HDLSを発症するのに対し、CSF1R変異がホモ接合体で生じると、小児発症の白質脳症を発症する。申請者は,CSF1R変異を伴うALSP/HDLS多数例の解析により,恒常性ミクログリアの破綻が病態の鍵となることを明らかにしてきた。ALSP/HDLSに対する有効な治療法は確立しておらず、分子病態に基づいた治療法の開発が課題となっている。本研究課題は,CSF1Rシグナル伝達不全が恒常性ミクログリアの破綻を惹起し白質変性を引き起こすという仮説をもとに,患者剖検脳・試料ならびにモデル細胞を用いた多面的なアプローチを行い,ALSP/HDLSで生じる恒常性ミクログリア破綻の分子機序を明らかにする。さらにALSP/HDLSハプロ不全モデル細胞において,分子病態機序に基づいた新規治療法の効果を検証し,ALSP/HDLSの治療法開発に向けた基礎的研究を実施する。
2: おおむね順調に進展している
ALSP/HDLS患者で同定されたCSF1R病的バリアントを発現するモデル細胞を樹立した。CSF1Rのリガンド依存性自己リン酸化を抗リン酸化抗体により定量し、CSF1R関連疾患の表現型との相関を検討した。その結果、CSF1R自己リン酸化とキナーゼ活性レベルが、臨床病型と相関することを明らかにした。CSF1R野生型と病的バリアントはヘテロ2量体を形成することをプルダウンアッセイにより明らかにした。シス活性によりCSF1Rのリン酸化が生じていた。ミスセンス型病的バリアントは、野生型CSF1Rに対して顕性阻害効果を示さなかった。ALSP/HDLS患者剖検脳組織からシングル核を分離し、網羅的なトランスクリプトーム解析を行うシステムを構築した。
CSF1R病的バリアントを発現するモデル細胞を用い、CSF1Rキナーゼ活性調節剤を用いたレスキュー実験を行う。ALSP/HDLS患者由来の生体試料を採取し、ミクログリアに着目した解析を2023年度に進める。ALSP/HDLS患者剖検脳を用いたシングル核RNA-seq解析を進め、ミクログリアクラスターで生じている遺伝発現変動を明らかにする。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
European Journal of Neurology
巻: 30 ページ: 1861-1870
10.1111/ene.15796
Acta Neurologica Belgica
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1007/s13760-022-02110-z
Acta Neurologica Scandinavia
巻: 145 ページ: 599-609
10.1111/ane.13589