研究課題
HTLV-1感染者の約95%は、無症候性キャリア(AC)として生涯を全うするが、感染者の約5%で成人T細胞白血病(ATL)を、約0.3%でHAMを発症する。ACではHTLV-1感染細胞が少なく宿主の免疫によりHTLV-1が制御されているが、ひとたびこの均衡が崩れ宿主免疫の機能が低下するとATLを、免疫が異常な活性化を起こすとHAMを発症する。しかしながら、なぜ同じウイルスが免疫不全症と炎症性疾患という相反する病態を引き起こすのかは不明である。そこで本研究では、HTLV-1というウイルスに感染した後、ACでは維持されていた感染細胞と宿主免疫のバランスが、HAMではどのように乱されていくのかを、シングルセルレベルで解析することで、HAMの真の病態形成機序を明らかにすることを目的とし、我々が同定したHAMに特異的なシグナル伝達系の活性化が感染細胞と宿主免疫のバランスに与える影響を①ウイルス遺伝子発現による誘導、②T細胞受容体による誘導、③液性因子による誘導の3つの段階に分けてシングルセルレベルでの検証を進めた。
2: おおむね順調に進展している
HAMに特異的なシグナル伝達系の活性化が感染細胞と宿主免疫のバランスに与える影響を検討するため、HAM患者由来PBMCのシングルセル遺伝子発現解析(scRNA-seq)を実施し、シグナル伝達系遺伝子の発現解析を進めた。またHAM患者由来PBMCを用いてscRNA-seq / scTCRレパトア同時解析を行い、major/minor cloneにおける遺伝子発現の差を検討した。同様にHAM患者髄液細胞を用いてscRNA-seq / scTCRレパトア同時解析を行い、major/minor cloneにおける遺伝子発現の差を検討し、血液中と髄液中でのクローンの分布を比較した。これよりHAMの病態形成に寄与するCTLクローンの同定を行った。また、HAMに特異的なシグナル伝達系の活性化により、炎症性サイトカイン等の液性因子が、周囲に存在するどの種類の細胞にどのような変化を引き起こし得るかを、3日間培養したHAM患者由来PBMC培養上清を神経系細胞株の培養系に添加しscRNA-seqにより検討した。使用する検体も問題なく得られており、順調に進展している。
前年度に引き続き検討を進める。具体的には、HAM患者由来PBMCを培養し、シングルセル遺伝子発現解析(scRNA-seq)を実施し、HAMに特徴的な変化を明らかにする。さらに、HTLV-1の機能遺伝子であるtaxおよびマイナス鎖に存在するHBZ遺伝子の発現がシグナル伝達系遺伝子の発現亢進に寄与しているかを検討するため、HTLV-1感染CD4+T細胞のなかでもtax発現/非発現細胞、HBZ遺伝子の有無に区別し、シグナル伝達系遺伝子の発現を解析する。HAM患者由来PBMCを用いて、HLA拘束性HTLV-1 tax特異的テトラマーによりHTLV-1-tax特異的/非特異的CD8+T細胞に分画し、それぞれの細胞のscRNA-seqを行うことでシグナル伝達遺伝子の発現を比較解析する。またscRNA-seq / scTCRレパトア同時解析を行い、major/minor cloneにおける遺伝子発現の差を検討する。さらに疲弊分子や分化関連分子、エフェクター活性といった免疫応答の状態についても解析し、CTLの機能異常の発生過程をシングルセル解析特有の「疑似時系列解析」によって明らかにする。同様にHAM患者髄液細胞を用いてscRNA-seq / scTCRレパトア同時解析を行い、major/minor cloneにおける遺伝子発現の差を検討し、血液中と髄液中でのクローンの分布を比較し、よりHAMの病態形成に寄与するCTLクローンの同定を試みる。HAMに特異的なシグナル伝達系の活性化により、炎症性サイトカイン等の液性因子が、周囲に存在するどの種類の細胞にどのような変化を引き起こし得るかを、3日間培養したHAM患者由来PBMC培養上清を神経系細胞株の培養系に添加しscRNA-seqにより検討する。
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