研究課題/領域番号 |
22H03005
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛 |
研究代表者 |
戸田 裕之 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 精神科学, 教授 (00610677)
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研究分担者 |
新本 弘 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 放射線医学, 准教授 (00206335)
太田 宏之 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 薬理学, 准教授 (20535190)
田中 良弘 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 救急部, 教授 (50533981)
田辺 肇 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (60302361)
竹内 崇 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 准教授 (70345289)
長峯 正典 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 防衛医学研究センター 行動科学研究部門, 教授 (70725217)
古賀 農人 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 精神科学, 助教 (70744936)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 心的外傷後ストレス障害 / 交通外傷 / エピジェネティクス / DNAメチル化修飾制御 / CRISPR/dCas9 |
研究実績の概要 |
研究の目的は、発達段階の逆境的環境曝露(ELS)を背景とした心的外傷後ストレス障害(PTSD)の病態生理を、ストレス応答回路の一つである視床下部・下垂体・副腎(HPA)系の機能異常の観点から明らかにすることである。PTSDではHPA系遺伝子のエピジェネティックスな変化による 制御が指摘されていることから、本研究では(1)PTSD発生確率の高い交通外傷患者を対象に、ELSとHPA系関連遺伝子リスクアレル・メチル化 評価、脳画像による脳機能評価とPTSD症状に関する前向き観察研究を行う。さらに(2)CRISPR-dCas9技術によるHPA関連遺伝子の選択的なメチル化・脱メチル化操作により、ELSによって誘導されるエピジェネティックスな変化がPTSDの病態に直接関与しているか、を検証する。これによりELSを背景としたPTSD発症要因が解明され、PTSDのPrecision Medicineが提案される。 交通外傷患者を対象とした研究では、交通外傷で救命救急センターに入院をした患者を対象に1年間のフォローアップを実施する。PTSDの12カ月有病率は1%以下であるため、一般集団を対象としたコホート研究には多数のサンプルかつ長期間のフォローが必要である。一方、交通外傷などにより救命救急センターに入院した患者のPTSDを含む精神症状の発症率は20~30%と比較的高率であるため、PTSDなどの疫学研究の母集団として注目されている。マウスを用いた基礎的研究で用いるCRISPR/dCas9システムによるメチル化操作は、CRISPR/Cas9の標的遺伝子を特異的に認識するシステムを応用することで、目的の遺伝子を特異的に修飾する最新の技術である。HPA系遺伝子特異的なメチル化状態がPTSDの病態に関与しているかを直接的に検証できるため、独創性かつ創造性に富んだ研究となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交通外傷後の前向き観察研究のpolygenic risk score(PRS)、DNAメチル化、脳画像に関する研究:交通外傷によって救命救急センターに入院した患者を対象に、前向き観察研究を実施している。目標症例数は200例まで研究対象者の組入を行う。 マウスによる特異的遺伝子領域のDNAメチル化制御によるPTSDの病態解明研究: CRISPR-Cas9系を応用したDNAメチル化修飾制御を試みた。DNA切断能を欠損したCRISPR-dCas9とGCN4の融合分子、特定のDNA領域を標的とするためのガイドRNA、GCN4を抗原部位として結合する抗体であるscFVとDNMT1(メチル化酵素)あるいはTET1またはTET2(脱メチル化酵素)との融合分子を発現する遺伝子構造をアデノ随伴ウィルス(AAV)のゲノムDNA上に導入した。これらを発現させるAAVを細胞に感染させ、細胞内で複合的に標的DNAに相互作用して、メチル化制御を行う系の確立を試みた。 なお、本研究に関連するものとして、動物実験を用いた基礎的研究に関する学会発表を3回、PTSDに関連した臨床的学会発表を3回実施した。
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今後の研究の推進方策 |
交通外傷後の前向き観察研究のpolygenic risk score(PRS)、DNAメチル化、脳画像に関する研究:目標サンプル数の200例に達するまで、研究対象者の組入を続け、その後解析を実施する。研究対象者は着実に増加しているが、進捗率はやや遅れている。本研究は、救急救命センターに入院した患者を対象にしており、身体的急性期の患者の同意を得る必要がある。また、PTSD症状の構造化面接であるCAPSは約60分の所要時間を要する。さらには、DNAのための血液を採取する、頭部のMRIを撮像するなど、研究チームにも多大な労力を要する研究である。研究参加者を増やすために、研究体制の強化も実施している。具体的には、6CAPSを実施する心理士・精神科医を6名→8名に増員し、研究の事務員を1名→3名に増員した。なお、PTSD関する研究、ELSに関する研究など本課題に関連する研究を実施して、英語論文として掲載されている。 マウスによる特異的遺伝子領域のDNAメチル化制御によるPTSDの病態解明研究: DNMTやTET1、TET2の酵素反応強度を制御することが可能か調査する。また、これまでの検討では、AAV感染からメチル化率の分析まで1週間を設定しており、経過時間とメチル化率の相関関係の検討が必要である。培養細胞を用いたDNAメチル化修飾制御(メチル化、脱メチル化)系は概ね確立することができたので、今後は、生体レベルでのメチル化制御の検討ならびにストレス負荷、行動分析を進める。拘束ストレス負荷(心的外傷体験に相応)、オープンフィールド試験(自発運動、探索行動)、強制水泳試験(抑うつ行動)、高架式十字迷路・ガラス玉覆い試験(不安行動)、社会的相互作用試験(興味・関心、社交性)、恐怖条件づけモデル(恐怖記憶)などである。
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