研究課題
近年、放射線治療と免疫療法の併用が、がん治療において注目されており、局所制御や遠隔転移抑制の観点から有望であるが、最適な併用時期、総線量や分割方法など解決すべき課題は山積している。我々は、光子と粒子の細胞・動物実験を通じて、その生体応答の違いを探究してきた経験より、重粒子線と免疫チェックポイント阻害剤の相性が良い事を見出した。本研究課題では、難治性癌を含む様々な癌種に対する光子線・重粒子線免疫療法の効果を検証するだけでなく、近年注目されつつある超高線量率照射(> 40 Gy/sec)(FLASH照射)を用いることで、放射線の線質の違いだけでなく、線量率(単位時間あたりの放射線量)の違いにも着目し、免疫チェックポイント阻害剤併用時期、総線量、分割法を細胞実験・動物実験から遺伝子発現解析までを網羅的に検討・解析することにより、最適な免疫放射線治療法を確立することを目的とする。現在、超高線量率照射システムの開発において細胞実験が遂行できる照射野(放射線が照射される範囲)の拡大を完了し、これまで照射野の大きさがネックとなり十分な細胞数が担保できずに実験が遂行できないという問題を解消した。我々で開発したシステムでの照射により、これまで低酸素環境でのみ観察されるとされていたFLASH効果(抗腫瘍効果を維持しつつ、正常組織を防護できる効果)が、大気下でも観察された。また、がんの浸潤能においても通常の線量率に比べ超高線量率照射では抑制される現象を観察した。一方、腫瘍免疫においては、超高線量率照射で照射した場合、通常線量率に比べてPD-L1(Programmed cell Death ligand 1)の発現が抑制されており、免疫チェックポイント阻害剤との併用については、さらなる検討が必要と考えられた。
2: おおむね順調に進展している
超高線量率照射における細胞機能解析が概ね完了し、メカニズムの解析に踏み込めている。今年度は、国内外で複数の発表を行い、国際学会でのプロシーディング論文も公表した。
通常線量率と超高線量率によって細胞応答が異なるメカニズムを解明する。特に、腫瘍細胞と正常細胞では、内在するラジカルスカベンジャー量が異なるとされており、照射後のDNA切断量から解析したい。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
RADIOTHERAPY AND ONCOLOGY
巻: 182 ページ: S1998-S1998